「危機管理の原則」から
ことごとく外れているフジの対応
こうしたトラブルが起きた際の企業の対応には、(1)調査、(2)謝罪、(3)処分、(4)再発防止策の発表という4セットが必要です。しかし、現状のフジは(1)の調査は中途半端なまま。(2)の謝罪はしているものの、誰に対しての謝罪かわかりません。社員なのか、被害者なのか、スポンサーなのか、原因が「プライバシー」の名の下に明解でない以上、責任者も明確にできず、謝罪の主体が誰になるかわからないのですから。そして(3)の処分も(4)再発防止策も、第三者委員会の調査を待たないと、はっきりとは決められません。
私は文藝春秋社を退社したあと、約2年間、危機管理会社リスク・ヘッジで、この世界の権威である田中辰巳氏に、危機管理のキーワードを教わりました。それは、危機管理には「感知→解析→解毒→再生」という流れが必要だということです。
今回の問題は、中居が女性に性加害をもたらした時点で、フジテレビ側に事の重大さを「感知」する能力が足りませんでした。被害者が求めるもの、そして性加害に厳しい世論がある現状をまったく理解していなかったのです。報告を受けて事件の性質を「解析」したら、中居の番組即降板は当然のことで、事件との関連性がわからないように降板させることも十分可能でした。しかし、局が中居登板を優先したことで、被害女性の「解毒」はできなくなりました。
フジテレビは、「被害女性が事件が漏れることを嫌がったから、中居の登板を続けた」と言い訳していますが、これには疑問があります。
会見で新たにわかったことは、問題を把握していたはずの港社長も被害女性と接触することはほとんどなく、精神科医を通じて様子を聞いていたということでした。精神疾患を発症し、手術まで必要だったという被害女性は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の可能性が高いです。彼女が局内や映像で中居の姿を見たり、声を聞いたりするだけで、この症状がひどくなりえる可能性があることは、精神科医なら誰でもわかることです。精神科医が、そのことを指摘していないとは思えません。
こうして見ると、フジテレビ関係者の深層心理は、「被害女性の回復・復帰に全力を尽くそう」というより、「厄介で面倒な被害者が出現してしまった。なんとか女性が中居と戦うような事態が起きないようにしよう」というものではなかったか、そしてあの手この手で被害女性の口封じを図っていたのではないかと、疑われても仕方がありません。