「適度に気を散らす」ことが
最適なパフォーマンスを呼ぶ
結果は意外なものだった。予想されたように、最もパフォーマンスが悪かったのは、タスクの切り替えが一番多かった(気が散っていた)被験者だった。しかし、最もパフォーマンスが良かったのは、タスクの切り替えが一番少なかった(1つずつ順番にタスクを行った)被験者ではなかったのだ。実験結果をもとに縦軸を「生産性(パフォーマンス)」、横軸をタスクの切り替え数としたグラフを作成すると、逆U字型のパターンが現れた。中央に位置していたのは、健全なレベルで気を散らしていた被験者だった(図2)。

つまり、最高のパフォーマンスを発揮したのは、適度にタスクを切り替えていた人たちだったのだ。

アリ・アブダール著、児島 修訳
気が散ることは、なぜこのような効果を生じさせるのだろうか?集中する対象を頻繁に変えるとパフォーマンスが落ちる現象は、専門用語で「スイッチング・コスト」と呼ばれる。これは、タスクの切り替えによって認知的・時間的リソースが浪費されてしまうために生じる。あるタスクを中断し、別のタスクに意識を向け、その新しいタスクの要求に適応するために要する精神的な労力が大きいことは、誰でも想像できるはずだ。これは、この図の右側に位置する被験者のパフォーマンスに影響した問題だった。
一方で、1つのタスクに集中しすぎると、認知リソースを使い果たし、結果として集中力が落ちてしまうことがある。これは、この図の左側に位置する被験者に影響した問題だった。
つまり、最適なパフォーマンスのためには、ほとんどの時間を1つのタスクに集中しつつ、過度な集中は避け、適度に気を散らしたほうが望ましい(そのことで自分を責める必要もない)というわけだ。