J-WESTカード、ICOCA、Wesmo!の3本柱で
「WESTERポイント」経済圏を構築
一般ユーザーの視点ではどうだろうか。Wesmo!はクレジットカードや口座振替、ATMなどからチャージした残高で支払うタッチ決済であり、PayPayなどの先行する大手QRコード決済と大差はない。
JR西日本はこれまでもICカード「ICOCA」と自社クレジットカード「J-WESTカード」を展開してきた。対応店舗が多く高額決済が可能なクレカと、鉄道利用と少額決済に特化したICカードが二本柱だったが、コロナ禍以降、その中間の決済において、QRコード決済に代表されるデジタル決済が急速に普及した。
実際、2021年に取材した時点では、同社の決済サービス戦略はスマホアプリ「WESTER」と「モバイルICOCA(2023年3月リリース)」を中心に展開予定との説明だったが、ICOCAはシステムの拡張性やチャージの上限額2万円などの制約があるため、2023年頃に方針を転換したという。
ただ、グループ共通ポイント「WESTERポイント」を中心とした経済圏の構築という目的は一貫しており、クレカ、ICOCA、Wesmo!という3つの決済手段はひとつのポイントシステムに接続される。複数の決済手段を持っているユーザーはロイヤルティーが高くなる傾向にあるといい、利用エリア、シーンなどに応じて決済手段を使い分けることを想定している。
Wesmo!加盟店の決済でもWESTERポイントが貯まり、また、ポイントを支払いに使うこともできる。JR西日本はプレスリリースで「会員900万人」「年間60億ポイント」の「WESTERワールド」を加盟店への訴求ポイントに挙げている。魅力的なポイントシステムが利用者を増やし、利用の拡大が加盟店の開拓につながる格好だ。
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ポイントが地域に還元されるのはJR西日本にとってもありがたい話だ。内田氏によれば、旧「J-WESTポイント」時代は6~7割がICOCAにチャージされていたが、これは外部の事業者に流出する可能性の高い利用形態だ。WESTERポイントになってからは4割程度まで減っているが、これをさらに減らしたい。
そのために、チャージのレートを超える、1ポイント1円以上の価値を作ることを目標に据える。航空会社のマイレージプログラムが、1ポイントいくらではなく、特典航空券やオリジナルグッズとの交換を価値にしているように、「結果として貯まっているポイント」ではなく「目的をもって貯めるポイント」にしたいと語る。
ポイントを軸に、利用者と地域の店舗をつなぐ資金移動業。このような構想は、鉄道事業者としての信頼や安心がある我々だからこそできると内田氏は語る。飽和状態になりつつあるデジタル決済サービスに割って入ることはできるのか。Wesmo!の挑戦に注目したい。