業界最安レベルの
決済手数料にした狙い
それでもJR東日本が銀行代理業に進出したのは、鉄道利用とグループ全体の購買データ、銀行口座の入出金データを結び付け、顧客のニーズに応じたサービスを提供して顧客ロイヤルティーを高めることが狙いだ。JRE BANKは運賃・料金が4割引きとなる優待割引券などの手厚い特典を用意することで、JR東日本経済圏の入口とする考えだ。
これはひとつの考え方で、優劣の問題ではない。ただJR西日本は、人口減少、ローカル線の存続問題など課題を抱える地域経済を活性化させるには、カネの動きを自ら作り出す必要があると判断し、資金移動業の形態を選択した。
デジタル決済は先行するサービスが多数あるが、Wesmo!は「低コスト」と「手軽さ」で差別化する。JR西日本が地域の店舗へヒアリングを重ねる中で見えてきたのは、キャッシュレス決済によるユーザーの利便性向上のために加盟店が無理をしている構図だった。
キャッシュレス決済の可否が店舗の選択を左右するようになったが、加盟店側の手数料負担は軽くはなく、売り上げの振り込みにも時間がかかるため資金繰りにも影響がある。利用者の利便性はもちろん、加盟店にとってもメリットがあるものでなければ本当のキャッシュレス化は実現しない。
そこで高価な端末を導入しなくても、スマホをタッチするだけでアプリが立ち上がる「BLUEタグタッチ」を使用(QR決済も対応可)することで初期費用を無料とし、決済手数料を業界最安レベルの1.9%に抑えた。売り上げは最短翌日、当面は手数料なしで銀行口座に出金し、現金化できる。このスピード感は銀行業では不可能だ。
またヒアリングの中で、地域の中小企業は少量の品目を多数の取引先から仕入れることが多く、振込手数料などのコスト負担が重いという実情も分かった。Wesmo!は店舗を運営していない企業・法人も「ビジネス会員」になれるため、仕入れなどの送金を無料にできる。まずは地方都市で完結するニーズを満たしつつ、将来的には西日本エリア外の企業も巻き込んで経済圏を構築する。
内田氏は決済手数料の「1.9%」はかなり攻めた数字だと語る。これにポイント原資の負担を加えると、資金移動業単体で大きな利益は見込めないが、他事業や地域経済への波及効果を重視し、システムの運営に必要な費用を賄えればいいという判断だ。資金が循環する仕組みを2~3年で構築し、4~5年後には本格的な稼働を実現。140兆円とされるBtoB決済代行市場の1%獲得を目標に掲げる。