限度額適用ラインの引き上げで
長期療養でも負担が下がらない

 では、この高額療養費の自己負担限度額の引き上げによって、25年8月~27年8月までに、70歳以上の人はどのくらい負担が増えるのだろうか。具体的にイメージするために、入院して1カ月の医療費が100万円だった場合で、所得区分ごとの自己負担限度額の推移を試算したのが次の表だ。

 例えば、現在の所得区分が「一般」(年収:~約370万円)の人の自己負担限度額の推移を見てみよう。

 25年7月までは5万7600円だが、25年8月以降は6万600円に引き上げられ、3000円の負担増となる。26年8月以降は、所得区分の「一般」は、「10」(年収:約260万~約370万円)、「11」(年収:約200万~約260万円)、「12」(年収:~約200万円)の3つに細分化される。

 この中で、一番所得の低い「12」の人の自己負担限度額は26年8月以降も6万600円に据え置かれる。だが、所得区分「10」の人は、26年8月に6万9900円、27年8月に7万9200円に引き上げられ、現在よりも1万8600円の負担増になる。同様に、所得区分「11」は6万5100円、6万9900円と引き上げられ、1万2300円の負担増だ。

 だが、所得が増えるごとに引き上げ率が高くなり、負担感も大きなものになっていく。特に医療費の負担が大きくなるのは治療が長引いた場合だ。

 高額療養費には、長期療養の負担を引き下げるための「多数回該当」という制度がある。これは、直近1年間に高額療養費が適用された月が3回以上あると、4回目から自己負担限度額を引き下げてもらえるというもので、がんなどで長期療養している患者の負担軽減策として非常にありがたい制度となっている。

 例えば、70歳以上で年収600万円の人の場合、現在の自己負担限度額は【8万100円+(医療費-26万7000円)×1%】だ。この限度額を超えた月が直近1年間に3回以上になると、4回目から限度額が4万4400円になる。

 現在は、医療費が26万7000円を超えると高額療養費が適用されるが、今回の制度改正によって、25年8月以降は医療費が29万4000円を超えないと高額療養費が適用されなくなる。この適用ラインは、26年8月に33万6000円、27年8月に37万8000円と上昇していく。

 医療費が限度額の適用ラインを超えないと、高額療養費は適用されず、患者は通常通りの自己負担割合を支払い続けることになる。

 毎月医療費が35万円ずつ1年間かかったと仮定すると、現在は高額療養費が適用されて、当初の自己負担限度額は月8万930円。4カ月目からは、限度額は月4万4400円に引き下げられるので、1年間に支払う自己負担の合計は64万2390円だ。

 だが、27年8月以降は、医療費が35万円かかっても高額療養費は適用されないので、患者は医療費の3割である10万5000円を毎月支払い続けなければならない。1年間に支払う自己負担額の合計は126万円。家計へのダメージは大きくなりそうだ。