「ある日、外に出るところをオフクロに見つかり、『ちょっと、散歩に行ってくる』と言うと、『行かないで。外に行っちゃダメ!』と、必死な顔で止められて。逃げるように家から飛び出して、近所のコンビニで缶チューハイを買い、店のそばの縁石に座って飲んでいると、いつの間にかオフクロが僕の隣にいて。

『勇、お願いだから飲まないでおくれ』って。『うるせえな、ついてくんなよ』と、僕は小走りで逃げる。『お願いだから飲まないでおくれ!』って、80歳を過ぎたオフクロが泣きながら僕のあとを追ってくる。それを振り払って……。

 思い返すと地獄ですよね。でも、あのときは親不孝しているとか、オフクロに申し訳ないとか、そんな気はさらさらなかった。酒を飲むことで必死だったんです。邪魔しないでくれという気持ちしかなかった」

ついにコンビニで万引き
警察署へ連行される

 妻は家を出た。家には大学生の息子の義男と勇が残った。

 市営住宅で1人暮らしをはじめた洋子だが、家に残った息子が気にかかる。掃除や洗濯や食事作りや、家のことはほとんどできない夫である。その分、負担は息子に降りかかる。息子が心配だった。

 よくないと思いつつも、様子をうかがいに3日に上げず家に戻り、掃除や洗濯やご飯作りをしていた。

 精神疾患という位置づけで傷病休暇制度の適用を受け、基本給は支給されていたが、会社の手厚いフォローにも限界がある。

 5回目の入退院のあと、ほどなく基本給の支給は打ち切られて無給となり、基本給の7割程度の公的な傷病手当が支給されている。

 勇に現金やカードを持たせたら、すぐに酒に変わる。洋子は現金やカードを一切、勇に持たせなかった。当時の暮らしを勇は振り返る。

「1人暮らしをはじめた妻は生活費を息子の義男に渡して、お金は息子が管理したんです。必要なものは息子に言ってお金をもらい、レシートを息子に渡す。いちいち子どもの承諾を得て金をもらうなんて父親としては屈辱でした。