複雑性PTSDは2022年に刊行されたDSM-5-TR(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版の改訂版)には、まだ精神疾患として採用されていませんが、2019年のICD-11には、精神疾患として採用されていますね。

依存症専門外来との出会いで
人生が大きく変わった

 2010年代には、欧米で宗教的トラウマ症候群(RTS)という概念が知られるようになりました。宗教自体はもちろん悪ではないでしょうけれど、人間が組織を運営しているわけですから、当然ながらさまざまな不備がつきまとうわけで、場合によっては信者に害を与えます。「毒親」ならぬ「毒宗教」となるのです。

 宗教団体に苦しめられて、精神疾患を思わせる症状が出てしまうというもので、心理学者のマーリーン・ウィネルが提唱しましたが、この概念は日本ではまだほとんどまったく知られていないので、周知されてほしいと願います。

 基本的には複雑性PTSDが宗教問題と絡まって顕在化しているものだと思いますから、正式な「精神疾患」とするのは違う気がしますが、私が精神医学や心理学を専門とする支援者、つまり精神科医や心理士と話していても、宗教問題にはなかなか対応できないことが多いと感じるので、その状況が改善されてほしいんです。

 もっとも、宗教体験で苦しんだ患者側が「どうせ伝わらない」と予想して、初めからあえて話題にしないようにしていることも、この状況の原因をとなっているのかもしれませんが。

 アディクションの専門外来に通うようになってから、私の人生はかなり変わって、酒を飲むことはいまだにやめられていないものの、以前のような無茶な飲み方はすっかりなりを潜めました。私自身の判断では、一応「ほどほどに飲む」という感じでやれているかなと思うんです。人が見たら、また別の受けとめ方をするかもしれませんが。

 トシが広めている「ハームリダクション」(編集部注/依存薬物などの使用を減らすのではなく、その使用による二次的な弊害を低減することを目的とする。例えば、感染症拡大防止のために清潔な注射器を無償配布し、安全な薬物が使用できる注射室を設置し、比較的害の少ない代替的薬物を投与するなどの施策がこれにあたる)の考え方はすばらしいと感動しています。断酒するのは難しいけれど、アディクションの有害さ(ハーム)をぐっと減らすこと(リダクション)ならまだできる、というのは私にとって希望の星になりました。