クラブ間の交渉が合意に達しても
最終的には選手本人の承諾が必要
ここで記された移籍金とは、違約金という言葉にも言い換えられる。ある選手を獲得したいと望むクラブが、当該選手と契約を残しているクラブに対して、期待を込めて支払う対価であり、三笘の場合は当初の5400万ポンドはいうまでもなく、7500万ポンドもサッカー界では破格の金額だった。
サッカーの場合、クラブ間の交渉が合意に達しても、最終的には選手本人の承諾が必要となる。そして、ブライトンは三笘の意向を把握したうえで、クラブ間交渉の段階でアル・ナスルを拒絶した。
三笘個人の待遇はどうなのだろうか。三笘は2023年10月に、ブライトンとの契約を27年6月末まで延長。プレミアリーグでは年俸よりも週給で示されるケースが多い金額面での条件は、契約延長とともに2万ポンド(約377万円)から8万ポンド(約1509万円)と4倍にアップしている。
イギリスメディアによれば、アル・ナスルからは30万ポンド(約5657万円)を超える週給が三笘へ提示されたという。要は年収が一気に4倍近くになる計算となるが、三笘自身は一顧だにしなかった。英国の大衆紙『ザ・サン』は、ブライトンにおける三笘の立ち位置を踏まえながらこう伝えている。
「最初の入札を拒否されたアル・ナスルは目がくらむような金額とともに戻ってきたが、状況はまったく変わらなかった。プレミアリーグで3シーズン目を迎えている三笘は、ブライトンにおいて代役がきかず、なおかつ最も人気のあるスター選手であり、何より彼自身がヨーロッパからの移籍を望んでいない。よって冬の移籍市場で非売品となった」
三笘の真意の前に、アル・ナスル、そしてサウジアラビアサッカー界の現状を確認したい。
サウジ・プロフェッショナルリーグ(SPL)では23年6月に、それまでは同国のスポーツ庁が管理していたアル・イテハド、アル・アハリ、アル・ヒラル、そしてアル・ナスルの4クラブを民営化する目的のもとで、投資ファンドのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)が買収した。
もっとも、民営化はあくまでも名目。実質的な国家ファンドであるPIFのもとで、さらに潤沢な強化資金が4クラブへ流れる仕組みを構築。ビッグネームと呼ばれるスター選手を惜しげもなく獲得し、SPLだけでなく、独裁的とされてきた国全体のイメージを一変させる狙いが込められていた。