本来の性格は明るく陽気である。お節介焼きで、他の利用者に対する面倒見も良い。その反面、気分の波が激しく、はしゃぎまくっていたかと思えば、ちょっとしたことで一気に落ち込んだり、はたまた暴れ出したり……と、何かと忙しい。

 そのせいか、T作業所からは多くのペナルティを科せられ、個人の買い物は頻繁に禁止された。福祉サービスの利用を中止されたり、行事からただ一人外されたりしたこともある。

 ある日、個人の買い物を禁止されたことで、彼女はそれを撤回させるべく、社員に話し合いを求めた。しかし、いくら粘り強く求めても、社員は2階の事務室に籠もったまま、一向に姿を現さない。キコちゃんは苛立ちを募らせ、とうとう興奮状態に陥ってしまった。

「どうしてここは、買い物にも行かせてくれないんだよ!」

 彼女は作業所内で何度も大声を張り上げた。私は書きかけのサービス提供実績記録票を閉じると、「ちょっと外に出ようか」

 そう言って、彼女をT作業所の玄関先に連れ出した。

デートは禁止、結婚はダメ
スタッフの勝手な決めつけ

 キコちゃんは私に訴えた。

「以前いた施設なんか、1人でもコンビニとかに行かせてもらえたんだよ!500円玉持たされてさ。何時から何時ぐらいまでどこそこに行くと伝えて、500円を超えないように買い物してきたんだ。で、戻ってきたら職員さんが確認の判子を押してくれたの。なのに、ここはどうして何もかも禁止なの?おかしいよ!恋愛だって禁止じゃないか!」

 キコちゃんの訴えはしだいに熱が籠もり、声も大きくなった。

「T作業所に好きな人、いるんだよね?」

「いるよ。でも、デートはダメだって言われた」

「誰に?」

「U子さんに」

「デートぐらいしたっていいのにね?」

 この私の問いかけが、彼女の興奮を刺激したのかもしれない。キコちゃんのトーンがさらに上がった。

「だって、障害者は結婚しちゃダメなんでしょ!?」

「そんなこと誰に言われた?」

「スタッフに言われた」

「そんなことないよ。障害があっても恋人を作ったり、結婚したりした人なんか一杯いるんだから」

「でも、結婚できないって言われたんだもん。ここは、あれダメ、これダメが多すぎるよ!Jさんだって、この前、結婚したじゃないか!おかしいよ。つまんない。ここ出たいよ!」

「今日はどうして、そんなに不穏になっちゃったの?」

「U子さんに『買い物に行けないんなら、他の施設に移りたい』って言ったの」

「それで?」

「『じゃ、勝手に出て行けば』って言われた」