“身代わりのお釈迦様”の御利益

二尊がいらっしゃるならば三尊も。「大涅槃図」で訪れた泉涌寺の本堂に当たる仏殿には、鎌倉初期に活躍した仏師運慶作と伝わる三尊が並んでおられます。中央にご本尊、左右に脇侍の仏像という並びが定番ですが、こちらは三尊すべてがご本尊。向かって左側から、阿弥陀如来、釈迦如来、弥勒如来で、それぞれ過去・現世・来世の教主であることを示しており、「三世仏」(*注)と称されています。
泉涌寺の塔頭である戒光寺のご本尊も釈迦如来です。こちらは運慶・湛慶父子の合作と伝わる立像で、国の重要文化財です。丈六(一丈六尺=約4.8m)の高さを誇る大きなお釈迦様で、台座から背中の光背まで合わせると、高さ約10mにも。京都でも最大級の仏像です。
江戸初期、第108代後水尾天皇は皇太子時代に皇位継承争いに巻き込まれ、危うく暗殺されそうになりました。このとき、こちらのお釈迦様が自らの首に傷を受けて血を流し、身代わりとなって皇太子の命を救ったと伝えられています。逸話を証明するように、首元には今もその時に流したという血の痕がくっきりと残っているのです。このことから、“身代わりのお釈迦様”と呼ばれています。特に首から上の病気で身代わりになってくれるとして、厚く信仰されています。
京阪本線で南へ。黄檗宗の総本山である萬福寺(宇治市)は、第39回「都七福神めぐり」でも登場しました。2024年10月、国宝指定された3棟の一つで、境内最大の建物である本堂「大雄宝殿」のご本尊が釈迦如来坐像です。江戸初期の木造の仏様で、気高くもどこか親しみやすさを感じられるお顔立ち。摩訶迦葉(まかかしょう)と阿難陀(あなんだ)の両尊を脇侍に、十八羅漢像を従えておられます。
今回は、個性豊かな三つの涅槃図と7カ寺のお釈迦様をご紹介しました。慈悲に満ちたお釈迦様と向き合えば、慌ただしい日々の疲れもほどけ、穏やかな心持ちで4月からの日々を送ることができることでしょう。
*注:大涅槃図の公開期間中は大涅槃図に隠れる形となるため、三世仏は拝めません