「心理的安全性はすばらしいですが、それだけでは全員が自分の考えを率直に言えるようにはなりません」と、CREIO(編集部注/著者らによって創設された、組織における感情的知性を研究する共同事業体)の会員で、チームの研究を長年行っているヴァネッサ・ドリュスカットは言う。
「人のやり方を批判して不愉快な思いをさせたくない、とメンバーは思っています。でもさらに重要なことに、彼らはよいアイデアを人に言いたくないんです。地位が高くなるほど、情報を手放そうとしない傾向が見られます。よいアイデアが彼らの武器なんですからね。『このアイデアをチームに共有したら、もう自分のアイデアではなくなってしまう』と、出し惜しみするんです。知識経済では、『知識は力なり』ですから」
したがって、チーム内でメンバーが重要情報を安心して共有できるような環境をつくることが課題だと、ドリュスカットは言う。
ここでカギを握るのが、「帰属意識」だ。心理的に安全な場をつくるためには、帰属意識が欠かせない。「帰属意識があれば心を開きます」とドリュスカット。チームメンバーは、自分は何を求めているのか、どう感じているのかといったことを腹を割って話し合ううちに、心理的安全性を高め、ますます帰属意識を強めていく。
優れたチームとは何か?
いくつもの工場で確かめた
グーグルが優れたチームの研究を行う何年も前に、ドリュスカットは同様の研究を行っている。300のチームを抱える大規模な製造工場に行って、グーグルの研究者と同様、まず優れたチームを特定した。チームの業績指標を調べたほか、工場の幹部や、作業員からなるフォーカスグループに、「どのチームが最も優秀ですか?」と聞いて回った。そしてこれらの指標のすべてで上位10%に入っているチームを選び出し、ほかのチームとの違いを調べるために、チームメンバー全員をインタビューした。
ドリュスカットはそこで調査を終わりにしなかった。続いてスティーヴ・ウルフと組んで、同じ手法で他の数社のチームを調べた。たとえばジョンソン・エンド・ジョンソンの製薬開発部門やポリエステル繊維会社の工場現場で、優れたチームを特定した(注2)。このプロセスを数社でくり返すうちに、優れたチームをつくる条件が見えてきた。