一例として、ヒューレット・パッカードのあるチームには、「対人理解」に関する規範があった。このチームは、チーム内の業務を互いに代替できるように、日頃から部門横断的な研修を行っていた。だがチームには1人だけ、新しいスキルを学ぶことに不安を感じ、研修を拒むメンバーがいた。さいわいチームは、こうした問題への対処法をすでに学んでいた。メンバーのふるまいに腹を立てる代わりに、それを理解するよう務め、メンバーの不安に配慮して、チームとしてしっかりサポートし、安心してスキルを学べるようにした。お互いの感情を認識することは、チームの重要な規範だった。

高業績チームの規範群その2
「メンバーは互いを思いやる」

 2つめが、チームとしての「自己管理」に関わる規範群、いわば個人の自己管理のチーム版だ。お互いに思いやりを示すという規範も、その1つ。くわしく言えば、「チームのメンバーがお互いに敬意を持って接し、サポートし、意見を求め、努力を認めること」である。

 また、個人の自己管理に心を乱す感情に対処することが含まれるのと同様、チームの自己管理には、規範を破ったりチームの足を引っ張ったりするメンバーに「向き合う」ことが求められる。と言っても、規範を破っていることに気づかせるなどのさりげない方法でやることもできる。

グーグル社内調査で判明した、「優秀なチーム」と「優秀でないチーム」を分けるたった1つのこと『ゾーンに入る EQが導く最高パフォーマンス』(ダニエル・ゴールマン著、ケアリー・チャーニス著、櫻井祐子訳、日本経済新聞出版)

 たとえばデザイン・コンサルティング会社のIDEOでは、会議で人の発言を遮ったメンバーは、全員から小さなぬいぐるみを投げつけられる。これは「全員の意見をじっくり聞く」という暗黙の原則を、楽しく守らせるための方法だ。お互いを思いやることと、規範を破るメンバーに向き合うことは両立する。

 自己管理の規範群には、チームとして「問題をあらかじめ想定し、それを防ぐことに努めながら、不測の事態が起これば責任を持って対処する」という規範も含まれる。本記事の冒頭で紹介した、CREIOの初期の会議がその好例だ。私たちはCREIOで壁にぶつかった時、立ち止まって状況を分析し、問題を解決するための規範を生み出した。この規範は、25年以上経った今も守られている。