
ハラスメントや過酷な労働環境が常態化している芸能界。その“当たり前”が、少しずつだが変わりはじめているという。そのうちのひとつが、2024年11月1日に施行された「フリーランス法」。同法の施行を機に、これまで対象外だったフリーランスの芸能従事者も「特別加入労災保険」が適用されるようになったのだ。日本芸能従事者協会代表理事を務める森崎めぐみ氏が、業界の変革について解説する。※本稿は、森崎めぐみ『芸能界を変える――たった一人から始まった働き方改革』(岩波書店)の一部を抜粋・編集したものです。
セクハラ・パワハラ・自殺…
どこまでが労災認定の範囲?
2012年から仕事上のセクハラが原因の精神障害にも、労災保険が適用されることになっています。ハラスメントが多い芸能従事者にとって大きな安心材料になると思います。
実際に労災が認定された事例として、(1)身体接触を含むセクハラを継続して受けたことによりうつ病を発症した例、(2)派遣先の社員から性的な発言を長期間にわたって受けたことにより適応障害を発病した例などが厚労省から示されています。
この事例を芸能業界に置き換えると、プロデューサーや監督、俳優やタレントなどが行うセクハラや、制作会社やクライアント、スポンサーなどの社員などが関係するセクハラが想定されます。
●パワハラが原因の労災
2020年には改正労働施策総合推進法が施行されて、パワハラ対策が大企業の義務となりました。パワハラは6つの類型に定義されています(身体的な攻撃、精神的な攻撃、過大な要求、人間関係からの切り離し、過小な要求、個の侵害)。仕事上のパワハラが原因で精神疾患になった場合は、労災が適用できます。同時に仕事上でLGBTQ(編集部注/性的マイノリティ)に関して精神的な攻撃をされたことによる精神疾患も労災になります。
●自殺の労災認定
自殺に関しても、心理的負荷による精神障害と認定されたケースは労災保険が適用されることになり、1999年に当時の労働省の指針で「過労自殺」と定義されました。認定のためにいくつかの要件がありますが、すでに各分野で過労自殺が認められています。
●カスハラ
2023年に顧客や取引先、施設利用者らから著しい迷惑行為を受けたことによる精神疾患がカスタマー・ハラスメントとされました。