弱みに付け込む数々のハラスメント…芸能関係者への調査で明らかになった「ギョーカイの闇」Photo:PIXTA

タレントとフジテレビのあいだに発生したトラブルが、世間に波紋を呼んでいる昨今。きらびやかな世界の裏に隠れていた“ハラスメント問題”に大きな注目が集まっている。日本の芸能界に携わる人々の働き方改革に乗り出した俳優の森崎めぐみ氏は、実情を知るため業界関係者にアンケートを実施した。そこに寄せられたのは、想像を超えるハラスメントの数々だった。※本稿は、森崎めぐみ『芸能界を変える――たった一人から始まった働き方改革』(岩波書店)の一部を抜粋・編集したものです。

アンケートに事務的な質問は通じない
回答を引き出す「起承転結」の魔法

 感性が豊かな芸能関係者に回答してもらうために、アンケートに答えるときに侮られないような工夫も必要だと思いました。

 芸能従事者は、感受性が豊かでアーティスト気質の人がほとんどです。演者もスタッフも感覚と直感力に優れています。特に脚本のセリフの裏に込められた気持ちを読む読解力は、抜きん出て優れています。

 その反面、おもしろ味のない事務的な文章には厳しい評価をすることも多分にあります。つまりアンケートの文章が表面的だったり稚拙だったりすると、興味を持たれずに答えない可能性が大きいと思いました。

 そこで私が工夫したのが、アンケート全体の構成です。ドラマの基本である起承転結の構成にすることでリズミカルに次の質問に進めるように考えました。さらに伝統芸能の基本である「序・破・急」の段階を踏むことで、最後に用意した自由記述に向かって、自身の被害を書く勇気を段階的に膨らませ、躍動感を持って勢いで気持ちを吐露できる効果を狙いました。

・「起」──最初から3番目あたりまでは、属性に関する一般的な質問

・「承」──4番目以降に、同じ状況下にいる同業者にしかわからない親和性を感じる質問

・「転」──中盤で、意外性を持たせた質問で、本質に迫る内容に切り込む

・「結」──「承」での親和性による連帯感を持ちつつ、「転」で提起された問題を共有しながら、自己主張を促すような内容

 以上のような流れを作ることで回答後に問題意識を再確認しやすく、被害感情などを昇華できるような仕組みを狙いました。

 それによって芸能界で身に付いている起承転結の感覚が回答数の多さと自由記述の書きやすさに結びついたかもしれません。

芸能界のハラスメント行為は
監督・演出家・スタッフが最多

 アンケート終了後には繋がりのない人とも集計結果を共有し、回を重ねるごとに、潜在的に仲間意識を感じることで、安心して答えられる状況を意識的に作りました。このような工夫をこらしてタブーとされたハラスメントのアンケートに取り組みました。

 無記名で思いを伝えられることは、被害を告発すると仕事を失う恐れを抱かざるを得ないほど狭い業界にいる芸能人にとって、この上ない安心感を与えたことでしょう。この方法も諸外国が実施したアンケートから発想を得ました。