AGIがどちらも代替してしまう人間の考え方
「A思考」と「X思考」とは
もう少し人間の思考について考えてみよう。子ども向けのプログラミング環境であるScratchの開発などで知られるMIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボのミッチェル・レズニック教授は、その著書『ライフロング・キンダーガーテン』の中で、人間の思考を「A思考」と「X思考」の 2種類に分ける考え方を紹介している。
A思考は、学校の成績で Aを取るような思考であり、与えられた課題に取り組み、「やり抜く力」を発揮して、困難を(周囲の協力を得ながら)自分で克服してゴールを達成する。一方、X思考は、学校では成績が付けられないような言わばハチャメチャな思考であり、問題を引き起こし、課題を自ら生み出してチャレンジする。「素人のように考え、玄人として実行する」という言葉があるが、A思考は「玄人として実行する」部分を担い、X思考は「素人のように考える」部分を担うと言えるだろう。
これらの思考は、AIによってどの程度実現されているだろうか。先に述べたようにリサーチを自動的に行うdeep researchや、手許のパソコンでできることなら何でも自動でやってしまうOpen Interpreterといったツールは、人間に与えられた課題に沿って、試行錯誤しながらウェブ上の情報を収集・分析したり、プログラムコードを生成して正常に動作するまで自分でデバッグしたりする。技術は、A思考の自動化に向かって着々と進歩を続けているように見える。そうなると、A思考は機械により代替しうるので、人間に専ら必要なのはX思考であり、これからはX思考者を育てようではないか、という発想になるのも頷ける。
だが、待ってほしい。私たちは、知能の全体像を人工的に創る話をしているのだから、X思考も自動化できなければ、AGIが実現したとは言えないのではないか。しかし、新しいアイデアを生み出すAIなど創れるのだろうか。
実は、そのための試みもすでに始まっている。ソニーコンピュータサイエンス研究所所長の北野氏らが推進するNobel Turing Challengeプロジェクトは、AIが自動的に科学的発見を行って人類の知を拡大することを目指し、AIが自分で解くべき問題を決め、仮説を打ち立てるのはもちろん、生物学などのフィジカルな実験すらもAIとロボティクスにより自動化し、「AIシステムがノーベル賞級の発見を自動的に行うこと」を目標としている。