AI導入前にルールを
決めることの重要性

 JWCRはまず、生成AIによって何を実現するか、あるべきアウトプットの姿を決めなければならなかった。その結果、主題があり、5W1H(いつ、どこで、だれが、なにを、なぜ、どのように)が明確なデータというゴールが設定された。

 松浦氏は「AI導入前にどう要約にしたいかを決め切るのが重要」と語る。ELYZAのメンバーは専門知識を持つ各担当者の意見をとり入れつつ、鉄道知識、現場業務の理解を深めていった。また、開発担当者の数が多いと知識が分散してしまうため、同社のAI開発は常に少数精鋭のチームで取り組んでいるそうだ。

「(ELYZA側が)ちゃんと理解していないと、こういうルールを決めてくださいと言えません。言えないまま作ってしまうと良いものができない。決めてもらわなければならないことを、精度高くオーダーできるのが重要になります(松浦氏)」

 AIに対応したルールを決めず、それまでの体制のままAIを導入するとうまくいかないことが多いという松浦氏の指摘は、流行りものに飛びついたはいいが、活用できないままフェードアウトすることが多い鉄道事業者のサービスを想起せずにはいられない。

「(AIを導入しても)課題がどんどん出てくるんですね。AIが人間を介さず自動でチューンナップはしないので、この課題を解決するか、しないかを決めるのが人間に残る重要な業務です」という松浦氏の言葉は、AI時代を迎える中で重要な示唆のように思えた。

 生成AIの出来を決める学習は3段階で行われる。まず、オペレーターが音声記録を要約した「お手本」を作成する。AIは「お手本」に近づくように要約を作成し、内容の過不足や正確さなどをチェックしながら、何度も何度も試行を繰り返す。

 上手に「お手本」通りにできるようになったら、第2段階としてコールセンターの実際の通話記録を要約させる。多種多様、さまざまな分野に及ぶ実際の問い合わせでも「お手本」のように要約できるか、膨大な試行と改良が行われる。そうして昨年12月に第3段階としての実運用が始まったが、AIは引き続き検証と改良を繰り返しながら「育って」いる。