“半導体敗戦”を招いた
韓国への技術供与
しかも、ラピダスの2nm製造技術はIBMが戦略的パートナーシップを締結して提供する。ラピダスは“日の丸半導体”ではなく、IBMにライセンス料を払って共同開発する他力本願の国策プロジェクトなのだ。
かつて私はマッキンゼーでIBMの全世界担当ディレクターを務めたが、当時のIBMは自分でできることは自分でやる会社だった。今回は、自ら投資して次世代半導体を開発するのはリスクが高いとみていたIBMの前に、「鴨(ラピダス)」が「葱(補助金)」を背負って現われたから技術提携・共同開発を持ちかけたのかもしれない。
また、ラピダスが製造した半導体をIBMが買う契約になっていない場合、価格が折り合わなければ、IBMはラピダスから買わず、TSMCなどのファウンドリ(半導体受託製造企業)に委託するだろう。
IBMは多額のライセンス料を得るので、ラピダスの半導体を買わなくても、失うものは何もない。そんな不透明なプロジェクトに国民の税金を注ぎ込むのは、愚の骨頂と言わざるを得ない。
半導体製造は経験の積み重ねがすべてであり、回路線幅を一気に20分の1にすることなどできない。30年の眠りから覚めていきなり大跳躍するための人材は、日米ともに持ち合わせていないのだ。
日本政府は1991年の第2次日米半導体協定で「日本の半導体市場における外国製のシェアを20%以上にする」と約束した。
しかし、アメリカには軍事用のチップしかなかったため、日本が必要としていた民生用は韓国に技術供与して、韓国製を輸入するしかなかった。正規の技術提携だけでなく、日本企業のエンジニアが“アルバイト”で毎週末にソウルへ飛び、韓国企業に技術を教えた。
それがその後のサムスン電子などの台頭による“半導体敗戦”を招いたのである。
日本企業が依然として強い
半導体産業の分野を磨け!
とはいえ、半導体産業の中で日本企業が依然として強い分野はまだある。半導体素材(シリコンウエハーやフォトレジスト)の信越化学工業、半導体製造装置の東京エレクトロンやディスコなどである。これらの素材や装置がないと、TSMCもサムスン電子も半導体を製造することはできない。