開発に10年かかる分野は日本企業の得意技であり、そこに絞って技術を磨いていけば、日本は海外勢に大きく後れを取っている半導体の開発・製造に税金を使わなくても、世界の半導体産業の中で存在感を増すことができるはずだ。
産業は安い労働コストと市場を求め、国境を越えて移動する。たとえば、繊維はイギリスからアメリカ、日本、韓国、インドネシア、中国に移り、今はバングラデシュなどに行っている。家電も自動車も半導体も同じである。だから、国力を維持するためには常にITやAIなどの新しい産業を興していかねばならないのだが、今の日本はそれらもすべて滞っている。
ただし、世界で繁栄しているのは国全体ではなく、メガリージョン(大都市圏)だ。たとえばアメリカはシリコンバレーやサンフランシスコ・ベイエリア、中国は深セン(シンセン)と広州と北京の中関村(ちゅうかんそん)、インドはバンガロールとプネーとハイデラバードである。

大前研一 著
日本は落ちぶれてしまった半導体そのものにこだわって北海道や熊本、山梨、三重に点々と工場を整備するのではなく、いま強い国際競争力を持っている半導体製造装置や半導体素材、電子部品、あるいはアニメやゲーム関係などに集中したメガリージョンを形成し、世界からヒト・モノ・カネ・情報を呼び込むべきなのだ。
しかし、その役割を日本政府に求めても、結局は税金を費消することを繰り返している。
政府は、毎年6月に「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」を発表しているが、十年一日のごとく中身はスカスカで、「持続的な経済成長に向けて、官民連携による計画的な重点投資を推進する」といった空虚な文言が並ぶだけである。世界で大注目される企業がなくなってしまった日本の凋落が、政府の掛け声で反転することはないだろう。