テスト版は「生まれた日からの写真や動画でアルバムが完成する」アプリだった

 ミクシィは当初、「生まれた日からの写真や動画をアップするとアルバムが完成するアプリ」としてテスト版の「みてね」を開発し、ユーザーテストを実施しました。ところが、0歳児のママたちを約20人集め、家族と2〜3週間ほど使ってもらった結果、評価は芳しくありませんでした。特に「子どもが生まれた日からさかのぼって写真・動画をアップしていくUI」が不評で、「今日撮った写真をアップしたいのに」「生まれた日からだと多すぎて大変です」といった声が上がりました。

 つまり、利用者は「今日の写真や動画」を家族に共有したいと考えていたのです。いわば、子どもの毎日の成長をリアルタイムで、安心できるクローズドな空間で家族だけとシェアできる場所を求めていたのです。それこそが、利用者がまだ言語化していなかった、「隠れたホンネ」であり、競合も誰も気づいていなかった利用者が真に望んでいるものであったということです。

 そこで「みてね」のコンセプトを「熱量の高い今を家族で共有し、コミュニケーションを楽しみ、気づくと熱量の高い履歴が残せる家族アルバム」として、シンプルに最新から選んでいく「今日の写真や動画」を軸にしたUIに変更。リリースした結果、子どもが生まれたのを機に使い始める人を中心に、多くの家族からセンスのよいサービスとして受け入れられていったことは先述の通りです。まさに“グーグルフォトなどのオンラインストレージ以上、インスタグラムなどのSNS未満”といった“隙間”をうまくとらえ、利用者の心をつかむサービスを実現させたのです。

 ただ利用者に顕在化しているペイン(例えば「子どもの写真を撮る頻度と量が増え、定期的に写真をオンラインストレージにアップする作業が負担」「写真を共有する際、どの写真がすでに共有済みで、どの写真が未送信かがわからなくなる」といったストレス)を解消しようとするだけでは、「生まれた日からの写真や動画をアップするとアルバムが完成するアプリ」のままで終わっていたかもしれません。それではテスト版の段階で見られた低評価の壁を乗り越えられなかったでしょう。

 しかしミクシィは、利用者のインサイト「子どもの毎日の成長をリアルタイムで、安心できるクローズドな空間で家族だけとシェアできる場所が欲しい」という隠れたホンネを起点に、センスのよいサービスに磨き上げました。それが「みてね」の成功に直結したのです。