情報の“民主化”と引き換えに、エコーチェンバーやフェイクニュースなどの課題を抱える現代のSNS。マイクロソフトやグーグルでエンジニアとして活躍し、複数の企業で技術顧問を務める及川卓也氏は、「SNSが牧歌的だった時代は終わった」と言う。未来のSNSにどう向き合うべきか、及川氏の視点から解説する。
「優しいSNS」への回帰と憧憬を
呼ぶ現代のSNSの課題
先日、MIXIがSNSの新サービス「mixi2」をリリースし、話題となりました。プラットフォーム側がレコメンドしたコンテンツではなく、フォローした人の投稿が時系列に並ぶタイムライン、テキストや絵文字で気軽に感情表現できる機能、「mixi」でもおなじみだったコミュニティの重視などが特徴のmixi2。MIXIは「楽しい、優しい、ほっこりとした場になればと考えています」と同サービスについて説明しています。
そもそも2000年代初めごろの黎明期のSNSは、掲示板などに代わる新しい交流の場として登場。ユーザーは地理的な制約を超えてつながり、日記を書き、趣味の合う仲間とコミュニティを形成し、リアルでの交流会も活発に行われました。広告やアルゴリズムの支配は限定的で、人々は素直な自己表現とつながりを楽しんでいました。
10年以上前、ある小規模なイベントでTwitterの共同創業者であるビズ・ストーン氏の講演を聴く機会がありました。当時、Twitterは社会的プラットフォームとして急速に進化し、各地の民主化運動を支える存在となっていました。例えば、2010年から2011年にかけて中東や北アフリカで起こった「アラブの春」では、TwitterやFacebookなどのSNSが、情報共有や連帯の手段として活用され、民主化運動の拡大に寄与しました。
ストーン氏は、Twitterを「人間性の勝利だ」と表現し、当初のTwitterが性善説に基づくプラットフォームであったことを強調。創業からその講演の頃まではまだ、Twitter自体も牧歌的な雰囲気を持っており、性善説を信じて活動できる時代でした。
筆者自身、ハンバーガーに関する話題で見知らぬ人々とTwitter上で盛り上がり、その日の夜に下北沢駅で待ち合わせ、ハンバーガーを食べに行ったことがあります。「ハンバーガー探検隊」と名付けられたこの集まりは、その後も都内の有名ハンバーガー店を定期的に食べ歩く活動を続けました。また、ロック好きな人々をTwitterで募り、ロック飲み会を開催したこともあります。