じゃあ、逆の場合はどうなの?

「でもさ」と、サブカルEさんは言う。「じゃあ、逆の場合はどうなの? 例えばさ、昔カッコよかった俳優やミュージシャンが太ったとして、それでも許せる?」

 テーブルに一瞬の沈黙が流れる。

「あー、ガンズアンドローゼズのアクセル・ローズとか?」文学女子Bが言う。「あれはねぇ……世界中が嘆き悲しんだよね」

「いや、それはそれ、これはこれでしょ!」と即答したのは、エレ女のD子さんだ。「太ったイケメンはイケメンじゃなくなるの!物理的に!太った松坂桃李はもう私の松坂桃李じゃない」

「ちょっと、いつから松坂桃李はDさんのものになってたんですか!」「アクセルみたいなロックスターが太るのは、あれはもう芸術への裏切りだから!」「中年になっても痩せて居続けなくてはいけないとは、イケメンは大変だなぁ」「デュラン・デュランも活動再始動で痩せたよね。ビジネスダイエット」 「俳優もですよ。太ったティモシー・シャラメとか許されないでしょ?」 「それはいにしえのジェームズ・スペイダーへの挑戦ですか」

「みんな待って、うちの上司は元々イケメンじゃないんだから、そもそも論点が違うし!」

 Aちゃんが叫んで、テーブルは再び爆笑に包まれた。「あ、すいません、ドリンクのオーダーお願いしまーす」。それぞれ飲み放題で何周目かの注文をし、やってきた酒は各々の矛盾と共に飲み干されていくのだった。

河崎環プロフィール