プライベートも「俺を見ろ」のオンステージ
プライベート(既婚者子どもなし)のSNSも、港区でいい寿司食べましたとかいい酒飲んでますとか、妻と逗子でヨット乗りましたとかサントリーホールでマーラー聴きましたとか、やっぱり米国西海岸の空気は僕に合ってますとか久しぶりに昔のバンド仲間とライブです(ちなみに下手)とか、「俺を見ろ」のオンステージとなっていて、部下たちはそっとミュートしている。
「会議室入るときも、すでに独特なんですよ……。試合会場に入る格闘技選手みたいな、なんか自意識みなぎっている感じ」と、Aちゃんが肩で風を切る物真似に座は爆笑。「あなたが主役のオンステージが始まるんじゃないんですよ、会議ですから。でも周りが見えてない」
「カフカかよ」脱皮したら別の虫になりました
黙っていたCちゃんが、重い口を開いた。「私、まさにそういう男の被害者なんです」
彼女が30歳手前で3年同棲していた元カレも、まさしくそういう男だったという。彼も人ひとり分近く痩せたことで性格が激変し、まるで蛇が脱皮するように人間関係もスパッと脱ぎ捨てたのだ。
「最初は『よかったね』って応援してたんです。過労もあったし、ストレス喰いのせいもあって、気がつけば出会った時より15キロは増えてました。でも実際には、大学時代のスポーツを辞めて社会人になってから既に15キロ増えていたから、全部で若い頃から30キロ以上増えていたんですよね」
あー、そういう男性、多いよね……と、みなそれぞれに知り合いの顔を思い出す。「もともと運動していた人だから、筋肉記憶っていうんですか?運動すると比較的もとに戻りやすいのが本人も油断していたところだったとは思うんですけれど。ジムにせっせと通い出して、ダイエットと二本立てで。2年かけて痩せていきました」
Cちゃんは続ける。「カッコよくなったか……って言われると、正直『前ほど見苦しくはない』って程度なんですけど。だって別にもとがそんなイケメンってわけでもないから(笑)。けど、鏡の前に立つ時間が10倍になって、会話の内容も『俺のビフォーアフター、すごくない?』『太ってた自分が信じられない、もう思い出せない』って言い出して。自信がついたんだな~って思って見ていたら、転職して」
人ひとり分痩せて、転職もして……やる気スイッチをいろいろ押しまくった頃、その彼は最後のスイッチを押したそうだ。
「最後は『もっと可能性を広げたい』って言って、出ていきました。要するに『もっといい女イケるやろ』ってことですよ。私、30歳ですよ。3年同棲してたんですよ!?出て行って割とすぐ、ヤツは新しい彼女と結婚しました。SNSに写真上げてたんですけど、彼女は細くてモデルみたいで、私とは全然違うタイプ。あー、こういうことをやりたかった人だったんだ、って。前の自分を完全否定してますよね」
「不条理だ。カフカじゃないか。脱皮したら別の人間になったとでも?」と文学少女B。「元カレのSNSは見ちゃだめですよ!危険!!前へ進むんです!!」とAちゃん。