首相の地元は鳥取県。蟹、メロン、梨など、有力者でないと手に入れられないような超高級品があるはずです。議員の家族を労うならこういう食べ物は最適な贈り物でしょう。また、今後の政治活動を応援するなら、首相の大好きな鉄道模型やプラモデルにサインをして、事務所に飾ってもらうなどすれば、新人にとっては励みになります。こうして、各議員の立場や選挙区にマッチした品物をプレゼントすれば、選挙演説にも使えるはずだし、雑談の花が咲きます。これだけ騒がれていても、正直なところ商品券では「10万円ぽっち」というのが、永田町の金銭感覚なのです。
雑誌記者が垣間見た
あまりにもカネにだらしない政界の姿
雑誌記者から見ると、政界のカネに関するだらしなさは、与党ばかりでなく野党も政治記者も同じです。最初にそれを思い知ったのが、『文藝春秋』編集部が田中角栄元首相をインタビューしたときに、帰社したばかりの記者の話でした。
『田中角栄研究』で自らを首相の座から蹴落とした出版社のインタビューを受けるのには、復権を誇示する狙いもあったとは思います。しかし記者が驚いたのは、田中家を辞そうとしたところ秘書が走り寄ってきて、封筒に入れたウン百万円と思われる札束をポケットにねじ込もうとしたことでした。
当然彼は断りますが、秘書いわく「永田町では、記者は政治家からのオカネはもらうもんなんです。もらう人は反逆しない人だとわかりますから」――。
もちろん、記者に対して細かい気遣いをする政治家はいました。中曽根康弘氏が首相になって、雑誌界の関係者数十人でお祝いの会を開いたときのこと。お土産は彼の著書で、確か『新しい保守の論理』だったと思いますが、すべての本に1人1人の記者の名前と中曽根氏の名言が記されていました。首相になっても、1人1人に言葉を考えてプレゼントする――。これに感激しないはずはありません。
安倍首相時代は特にさかんだったのが、政治記者が首相を囲んで高級レストランで会食すること。首相のみならず派閥の領袖クラスには、料亭や高級ワインバーに記者を招くことを「アクセスジャーナリズム」として肯定する者までいます。接待される記者の側も「記者クラブに属し政治家と親しくしていても、発表をそのまま書いているわけではなく、各々工夫して書いているのだから、ジャーナリズムとしてはそれでいいじゃないか」という理屈があるようですが、ちょっと国民感覚からずれてはいないでしょうか。