現在の価値で50円くらいだと思いますが、子供にとっては嬉しかったですね。
あんな小さな破片が5円で売れるならと思い、オヤジに「すごくデカいのが河原にあったよ」といいましたけど、「そんなもん持ってこれねえだろ」と返されました。その通りです。
岩国の観光名所「錦帯橋」が架かる錦川のずっと上流には、当時、江戸時代初期から銀・銅・鉄などを産していた「河山鉱山」という鉱山がありました。
そこから鉄くずや石が流れてきて、河原ではときどき、ちょっと珍しそうな石を見ることができました。
そんなこともあって、石に興味を持つようになった僕は、河原へ行くと釣りよりもキレイな石を蒐集。持ち帰っては図書館で図鑑を広げ、その石の名前や価値を調べるようになりました。
高価ではありませんが、その名の通りバラの花びらのようなキレイなピンク色をした「ばら輝石」を見つけたときも感激しました。
オヤジのところへもちょくちょく行って、鉱山で産出される「青鉛鉱」や「方鉛鉱」、パワーストーンとしても知られる「虎目石」などを教わって、タダでもらったり、ときどき10円で買ったりしながら、箱に仕切りをつけて石を置き、石の名前と採取場所などを記した標本をつくり、それを眺めて悦に入っていました。
どことなく共感した
つげ義春『無能の人』
キレイな水晶を手に入れて、母親の誕生日プレゼントにしたこともあります。
「ありがとう」っていってくれたけど、今では「あんな水晶、いらなかっただろうなあ」と思い、悪かったと反省しています。
石集めは、僕の最初の趣味でした。
その約30年後、1985年に漫画家のつげ義春さんが、『COMICばく』という雑誌に掲載した『石を売る』を皮切りに、『無能の人』『鳥師』『探石行』『カメラを売る』『蒸発』という連作を不定期に発表しました。
1991年には、竹中直人さんが監督・主演を務め、『無能の人』というタイトルで映画化されました。
売れなくなった漫画家が河原で石を拾い集め、必死になって売ろうとする物語です。どことなく共感しましたね。
実際に石をコレクションしている人は珍しくありません。
5億年にわたるさまざまな岩石や地層、日本列島を二分する断層フォッサマグナの存在により、地球科学的な価値を持つ遺産「ユネスコ世界ジオパーク」に選ばれている新潟県糸魚川では、「石を拾う」をテーマとした町おこしを展開しています。