
コロナ禍では、密にならないレジャーとして、キャンプに注目が集まった。その後もキャンプ人気は続いているが、その中でも特に増えているのが、1人で行うソロキャンプだ。漫画家・弘兼憲史氏によれば、それと同じぐらい魅力的なのが、興味のあるテーマで各地を訪ね歩く「巡礼」だという。人生を面白くする2つの「ソロ活」について語る。※本稿は、弘兼憲史『楽しまなきゃ損だよ人生は』(宝島社)の一部を抜粋・編集したものです。
ホテルのない田舎にも行き…
当てのない究極の1人旅
僕には、思い出深い旅があります。
もう50年以上前のことですが、漫画家を志して松下電器(現在のパナソニック)を退職し、デザインの仕事を引き受けていた頃の1人旅です。
日本全国のサイクリングロードの写真を月ごとに載せるという、ある会社のカレンダーの企画で、カメラマンによる本撮影の前に、僕1人で撮影ポイントや交通事情などを下調べするためのロケハン(ロケーション・ハンティング)の旅に出たのです。
北は北海道から南は九州まで、空港または最寄り駅でレンタカーを借り、日のあるうちは最善の撮影ポイントを求めて、サイクリングロードの周辺を走り回りました。
その日に泊る宿を探すのは、撮影ポイントの当たりがついた夕刻になってから。今ではちょっと考えられませんが、当時の田舎にはビジネスホテルなんてほとんどありませんでした。
予約サイトなんてもちろんないし、前もって宿の予約ができるガイドブックもあまり出ていません。
そして何より、若かった僕は、「予約しなくたってなんとかなるさ。いざとなったら車で眠ればいい」と高をくくっていたのです。
その結果は……「なんとかならなかった」こともありました。
旅館や民宿など、泊まれる宿自体も少なかったし、ようやく探し当てた宿を訪ねても、その日に突然現れた“よそ者”は警戒されるのか、断られることも少なくなかったのです。
そんなスリルも、なかなか味わえない1人旅のスパイスとして味わいました。
一切の束縛のない解放感、知らない場所で知らないものに触れる冒険的ワクワク感、今日初めて会った“知らない人”とかわす会話のなかに、なぜか感じる温かみ……それらはすべて初めての体験でした。
あのロケハンは、20代の僕に1人旅の楽しさを教えてくれた、忘れられない思い出になりました。
「未知」に身を置く1人旅は、好奇心を満たしてくれる最高の娯楽かもしれません。
大自然にたった1人
ソロキャンプの楽しさ
そんな“1人旅の究極”といえるのが、2020年の流行語大賞のトップ10にも選ばれた「ソロキャンプ」ではないでしょうか。
たった1人で電気も水道も通っていない大自然の中に身を投じ、正真正銘の孤独を味わう。