2015年に文部科学省が公表した日本食品標準成分表の改訂版で、ヒジキの鉄は実は下処理に用いた鉄鍋に由来する「汚染物質」であったことが発覚したときには、関係者に衝撃が走りました。溶出が少ない「安全な」鍋を使ったヒジキでは、鉄分が激減していたのです。
それでもヒジキを健康によいと宣伝する人たちは変わらず、ヒジキを粉末にしたものを「健康食品」として販売しています。もちろんそこでは、ヒジキに含まれるヒ素のことは説明されていません。
乾燥ヒジキの無機ヒ素濃度は、100mg/kgくらいなので、5g食べると0.5mg(500μg)程度の無機ヒ素を摂ることになります。体重を50kgと仮定すると、10μg/kg体重/日の摂取量になります。これはEFSAの最新評価のBMDL05(0.06μg/kg体重/日)の166倍、JECFAのBMDL05(3μg/kg体重/日)の3.3倍です。
もちろん、粉末ヒジキ以外からも無機ヒ素は摂取されるので、これは上乗せ部分だけの量です。それでも健康のためになると言えるでしょうか。
特定の成分だけに注目して、「○○が豊富なので健康によい」といった主張をする人たちの中には、それ以外の成分を無視している場合がしばしばあります。食品そのものについて、私たちはまだよく知らないのだという事実をけっして忘れないでください。知らないことがあるのに、すべてわかっているかのように語る人は詐欺師です。
食品の安全性にとって最も大きな問題であるにもかかわらず、消費者があまり危機意識をもっていないのが、サプリメントなどいわゆる健康食品です。くりかえしますが、特定の物質による健康への有害影響の可能性(リスク)はそれを摂取する量が多いと大きくなります。
つまり特定の成分をたくさん含むようなものを、普段の食生活では摂らないような形態で長期間摂取することになるいわゆる健康食品は、食品添加物や残留農薬や各種汚染物質と比較して、格段にリスクが高くなります。