それが2021年にアメリカ食品医薬品局(FDA)が、議会からの要請もあってベビーフードのヒ素・鉛・水銀・カドミウムについては「よりゼロに近づける」という行動計画を発表し、これらの有害金属類への対策を強化することにしました。

 ヒ素について、具体的な目標となる数値は現時点ではまだ公表されていませんが、これまでより低い汚染レベルを目指すことが予想されます。

 そしてEFSAは、2024年に無機ヒ素の評価を更新して、BMDL05(0.06μg/kg体重/日)という、これまでよりさらに1桁小さい値を安全の指針値としました。これによって日本人だけではなく欧州でも、ほとんどの人がヒ素の摂取量は「安全上懸念となる」ことになるのです。

 そうはいっても、天然の食品に含まれているヒ素を減らすのは簡単ではありません。ヒジキはともかく、コメについては食べないという選択肢はありません。

なぜヒジキは持て囃された?
その裏にある誤解の歴史

 もちろん、日本人のほとんどはこれまでコメを多く食べてきており、たいていの欧州各国より平均寿命は長く、食品中の無機ヒ素が大きな健康被害を与えているとは思えません。しかし、残留農薬や食品添加物のような、意図的に使用されている化学物質よりリスクが高いことは事実です。

 農薬や添加物を心配するより、農林水産省が勧めている「より安全に食べるために家庭でできるヒジキの調理法」を実践したほうが、はるかに安全性が高まります。

 そこでは、乾燥ヒジキの無機ヒ素を減らす下処理の方法として、(1)水戻しする(5割程度減少)、(2)ゆで戻しする(8割程度減少)、(3)ゆでこぼしする(9割程度減少)の3つが紹介されています。

 ヒ素の事例をとりあげたついでに、健康食品との関連で、知っておいてほしいことがあります。

 ヒジキは、海外ではヒ素濃度が高いために販売できない国もあるようなハイリスクな食品ですが、日本では一部の人たちから「健康によい」と持て囃されてきた歴史があります。鉄やカルシウム、食物繊維が多いと宣伝され、ベビーフードにもよく使われています。