問題は食品です。食品では、魚介類や海草類、コメが主なばく露源です。つまり米を主食にして魚介類の摂取量が多い日本人の食事は、世界でもヒ素摂取量が多いほうなのです。

多くの国で販売禁止のヒジキ
無機ヒ素による発がんリスク

 さらに一般的に、魚介類中のヒ素は毒性の低い有機ヒ素ですが、ヒジキだけは毒性の高い無機ヒ素が多く含まれ、多くの国で食品としての販売は禁止されています。ヒジキの煮物を献立に入れるとさらに無機ヒ素の摂取量が増えるわけです。

 欧州食品安全機関(EFSA)は、2009年に食事由来の無機ヒ素についてリスク評価を行い、BMDL01として0.3~8μg/kg体重/日という値を設定しました。

 これは疫学研究において、ヒトのがんが1%増加するヒ素摂取量の、統計学的な信頼区間のうち低い方の量という意味で、事実上発がん影響が確認されないぎりぎりの濃度といったところになります。

 一方、国際機関であるFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)は、2011年にBMDL05として3μg/kg体重/日という値を出しています。こちらはヒトのがんが5%増加する量で評価しているので、BMDL05という表記になっています。

 そしてこの数μg/kg体重/日という量は、私たち日本人が毎日食事から摂取している量(食品安全委員会の2013年の調査事業で0.315μg/kg体重/日)とかなり近く、1桁くらいしか余裕がないのです。

 残留農薬や食品添加物の場合、毒性影響が出ない量から、種差や個人差を考慮して安全側に余裕をもたせるための安全係数100を用います。そのため、基準値の最大限の量を含むものを食べても、2桁以上の余裕があります。

 遺伝毒性発がん性の場合、残留農薬や食品添加物ではそもそも認可されませんが、安全係数は1万以上を目安にします。1万欲しいところで10未満というのは、小さいと判断されます。

食べないという選択肢はないが…
コメにヒ素基準がない日本

 JECFAの評価をもとに、コーデックス(編集部注/FAOとWHOが合同で設立した、国際食品規格委員会が策定している世界食品規格)は、2014年に精米で0.2mg/kg、2016年に玄米で0.35mg/kgという無機ヒ素の基準値を設定しています。

 日本にはコメのヒ素基準は設定されていませんが、国内で流通しているコメの中には、これら基準を満たさないものもあるだろうと考えられます。つまり、すでに2010年代の評価において、日本人のヒ素の摂取量は国際的には多いほうで、削減が望ましいとみなされていました。