写真はイメージです Photo:PIXTA
第二次大戦後に生まれたギャルヴィン家の12人の子どものうち6人が統合失調症を発症した。徘徊と入退院を繰り返す長男ドナルド、自分をポール・マッカートニーだと信じる9男マット、女王のために働いていると妄想する10男ピーターらの混乱と苦悩の記録を描く。※本稿は、ロバート・コルカー（著）、柴田裕之（翻訳）『統合失調症の一族：遺伝か、環境か』（早川書房）の一部を抜粋・編集したものです。
警察を呼ぶしかなかった
12歳の妹が感じた“罪悪感”
マットは長い間、自分が一家を牛耳っているという妄想に浸ってきた。それが今度は、自分はポール・マッカートニーだ、と宣言した。
マットはゲイリー夫妻の家で精神の錯乱を見せた後、1977年にロレット・ハイツ大学での陶芸のコースを中退して自宅に戻り、ドナルドやピーター（編集部注／ギャルヴィン家の長男と10男）といっしょに暮らしていた。
12歳で、この家に住む唯一の正気の子供である末娘のメアリーは、もうマットに守ってもらえなかった。今や彼も問題の一部で、危険な存在になっていた。
ある日、ピーターに嫌がらせをされたメアリーは、マットに助けを求めた。両親も、ドナルドも家にいなかった。2人の兄弟は、かつてドナルドとジム（編集部注／ギャルヴィン家の次男）がよくしていたように、リビングルームで向き合った。
パンチが飛び交い始めると、喧嘩の名目などもうどうでもよかった。マットとピーターは揃って抑えが利かなくなり、どちらも野蛮人のようになりかけた。こんな2人は、メアリーも見たことがなかった。彼女には、きっと殺し合いになるように思えた。
