さらに、最近テレビ番組の「チャーリーズ・エンジェル」でスタントスキーヤーの仕事をした、とも言った。

 プエブロの病院の職員はときどき、彼を拘束しなければならなかった。その後、拘束を解かれると、ピーターはいつも病院を出ることに決めるのだった。

 あるときなど、プエブロから東に80キロメートル余り離れた、人口1000人ほどの小さな町オードウェイまで行き、そこで1台の車に飛び乗り、走っているトラックに飛び移ろうとして、危うく轢かれかけた。

 別のときには、自分はイギリスの女王のために働いているシークレットサービスのエージェントだ、と主張した。

「現在、ピーターはあまりに常軌を逸していて精神的に異常なので、面接を行なっても無益で得るところがない」と、ある報告書には書かれていた。

「彼の短気や要求の厳しさ、軽度の多動性、他者を操作しようとする性質」に目を見張らされた医師たちは、ひょっとするとこの時点で初めて、ピーターの問題が統合失調症ではまったくなく、双極性障害(躁うつ病)である可能性が高いのではないかと考えた。

無視された誤診の可能性
投薬継続も止まぬ徘徊

 もしそうならば、まったく新しい種類の問題が生じてしまう。ピーターは全然当てにならないので、当時その疾病に最も頻繁に処方されていた薬であるリチウムをきちんと服用し続けてもらえそうにない。

 リチウムは精神科の薬としては珍しく、わずかな過剰摂取でも危険だ。ピーターは投薬計画に従わなければならないだけではなく、血中濃度のモニタリングにも同意しなければならないが、それは望めそうになかった。プロリキシンを投与されているかぎり、彼はおおむね大丈夫であるように見えた。

 そこで医師たちは、統合失調症という診断を維持することに決め、「現時点では、その区別はおそらく何らの実際的な重要性も持たないだろう」と結論した。

 ピーターは完全に異なる疾患を抱えている可能性が十分あったにもかかわらず、その後数年にわたって、統合失調症の治療薬を処方されることになった。

 ドナルドは家にいないとき、あるいはコロラドスプリングズのパイクスピーク精神保健センターの外来治療を受けていないときにも、依然として毎週多ければ300キロメートル以上歩いていた。仕事は新たに始めたり辞めたりしたが、徘徊は、宗教的な幻視や説教と並んで、けっして途切れることがなかった。