
第二次大戦後、ドンとミミ夫妻は12人の子に恵まれ、幸せな生活を送っていた。だが成長とともに子どもたちは精神に異変をきたし、6人が統合失調症と診断された。厳格な両親のもとで育った息子たちが次々と発症したギャルヴィン一家の実話である。※本稿は、ロバート・コルカー(著)、柴田裕之(翻訳)『統合失調症の一族:遺伝か、環境か』(早川書房)の一部を抜粋・編集したものです。
“申し分のない男”が起こした
たった一度の暴力が家族を壊す
ギャルヴィン家は、けっして普通の家族ではなかった。ドナルド(編集部注/ギャルヴィン家の長男)が最初の、最も目立つ症例だった年月にも、弟のうち5人がひっそりと、精神に変調を来しつつあった。
その1人が末弟で一家の叛逆児のピーターであり、躁病で乱暴で、長年にわたってあらゆる支援を拒んだ。
才能のある陶芸家のマシューもそうで、彼は自分がポール・マッカートニーだと思い込んでいないときには、自分の気分が天気を決めていると信じていた。
病気になった兄弟のうちで最も物腰が柔らかく、痛いほど自意識が強いジョセフは、異なる時や場所の人の声を、はっきりと聞いた。
そして、一匹狼の2男のジムは、ドナルドと激しく争い、一家でも特にか弱い者たちに襲いかかった。妹のメアリーとマーガレットが、とりわけひどい目に遭わされた。
最後がブライアン、申し分のないブライアン、一家のアイドルで、深刻そのものの恐怖心を家族の誰からも隠していた──が、たった一度の不可解な暴力の爆発で、家族全員の人生を永久に変えることになる。