「書き方」ではなく「考え方」
ロングセラーとなった本書の価値

 とはいうものの、妹尾さんは実例を豊富に取り上げ、懇切丁寧にハウツーも教えてくれますが、基本になる「考え方」を重視した点に本書の価値があり、ロングセラーとなっている要因はここにあります。

 1つだけポイントを紹介しておきましょう。

 研究計画書を構想する上で、将来書いた修士論文が最終的にどのように評価されるかを知っておくと、イメージがわきやすいであろう。
(126ページ)

 なるほどそのとおりで、修士論文の評価項目から逆算して研究計画書を作成すれば、最適な文書ができあがるはずです。そして、著者は評価で重視される点を具体的に列記してくれます。

・ 論旨の展開に一貫性があるかどうか。
・ 成果の一般性を志向しているかどうか。
・ 先行研究をきちんと理解しているかどうか。
・ 先行研究に何かを加えているかどうか。
・ オリジナルな議論・視点があるかどうか。
・ 具体的な成果があがったかどうか。
(126ページ)

 さらに、「修士論文の種類」に着目せよ、と続けます。受理する大学院側の分類法です。これを知ることによって逆に進学の目的が明確になるでしょう。以下は妹尾さんがかつて勤務していた産能大学経営情報学研究科の例です。

1. 学術的研究を主とするもの
2. 理論・技術調査を主とするもの
3. 実際問題解決を主とするもの
4. 情報システム構築を主とするもの
5. 現実調査を主とするもの
6. 演習を主とするもの
7. 理論・手法の新適用領域を主とするもの
8. 事例研究を主とするもの
(128ページ)

 もちろん、専攻する領域によって違いはあるでしょうが、以上の組み合わせで検討し、目的を明確にしてから「研究計画書」を作成することを勧めます。先に研究内容についてあれこれ考えるよりもはるかに効率的でしょう。大学院だけでなく、仕事の企画にも流用できそうですね。

 つきつめて整理していけば自分のレベルがわかり、学者になるのは無理だ、とわかるかもしれませんが、それはそれで、目的を変えればいいのです。

工藤美知尋著『大学・大学院への「小論文」と「日本語表現」』
2010年3月刊行。基本的な書き方はもちろん、多岐にわたるテーマでの模範小論文の実例が満載です。

 妹尾堅一郎さんによる「考え方」の考察を終えたら、実際の入試対策です。こちらにも適切な参考書があります。

 書き出しのポイントから模範例文まで大量に取り上げた、工藤美知尋『大学・大学院への「小論文」と「日本語表現」』(ダイヤモンド社、2010)です。とくに社会人が大学院入試を受ける際、事前に提出する「研究計画書」とペーパー試験の「小論文」がもっとも重要になります。

 小論文、すなわち作文にはコツがあり、何も準備しないで受験に臨むわけにはいきません。本書でコツをつかむことができます。

次回は5月30日更新予定です。


◇今回の書籍 16/100冊目
『研究計画書の考え方』

大学院入試で求められる研究計画書について、「研究」や「計画」に関する基本的な考え方から実際の書き方に至るまでを、いままで計画書を書いたことがない人、特に社会人の大学院志望者に向けてわかりやすく解説した画期的な一冊。

妹尾堅一郎 著

定価(税込)3,675円

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