つまり気のコントロールとは身体操作の技術の範疇であり、野球の大谷翔平にしてもボクシングの井上尚弥にしても、本人が自覚しているかどうかはさておき、それに長けているからこそハイパフォーマンスが発揮できるわけだ。

 さらに前島氏いわく、気の流れが理想的に整えられれば身体操作のみならず、「ひらめきなど発想力を高めることにも繋がる」という。そういえばあのスティーブ・ジョブズが、禅や瞑想に傾倒していたことを思い出す。彼は気の何たるかを理解していたのかもしれない。

手のひらから風が吹く
世にも奇妙な体験

 なお、前島氏によれば人は緊張すると上半身が強張りがちで、そうなると重心が上がり、身も心も不安定になるという。ここに、気とは何たるかを知る1つのヒントがある。

「たとえば、感情のことを“気持ち”と表現しますが、人が気を体のどこに持っているのかをわかりやすく示すのが怒りです。人は怒ると、腹が立ってムカつきますよね。ムカつくという表現が当てはまるのは胸ですから、腹から胸へと、気が上がってくることを示しています」

 逆に、怒りの感情を冷まして“落ち着く”のは、まさに「落ち」て「着く」のであり、気が丹田(へその下の奥にあるとされるツボ)の部分で安定している状態を指すという。

「この理屈を意識するだけで、怒りを鎮めることも緊張をほぐすことも少し容易になるはずですよ」

 いかにも東洋医学的な考え方ではあるが、納得感はある。そういえば筆者の高校時代、気功を使えるという教師が、テスト中の生徒に手のひらからすーっと風を送って驚かせるいたずらをよくやっていた。筆者は体験していないので懐疑的だったのだが、気にはそうした物理的な作用もあるのだろうか?

 そんな疑問を口にすると、前島氏は「じゃあ、ちょっと手のひらを出してみてください」と言う。

そして、筆者の手のひらの10~20センチ上から左手をかざすと、不思議なことに確かにふわりと風がそよぐのを感じた。思わず前島氏の背後の扉に目をやったが、隙間風が吹き込んでいる様子はない。

 呆気にとられた表情をしていると、前島氏はさらに「こうしたほうがもっとわかりやすいかな」と、筆者の手のひらの2~3センチ上の宙を、中指ですーっとなぞって見せた。するとその指の動きに合わせて、ビリビリっと電気が走るような刺激が確かに感じられたのだ。

 これは、プラシーボのようなものなのだろうか。いや、こう見えても疑り深い筆者としては、そう簡単に暗示にかかったとは思えない。実に奇妙な体験である。

触れてないのに「お腹がギュルギュル」「体がすっ飛ぶ」…一流の人が使いこなす「気」の力は本当だった!その場で気功を実践してみせる前島氏 Photo by Shogo Murakami