「部下とのコミュニケーションがうまくいかない」「なんだかチームがワークしていない」「上司が何を考えているのかわからない」……あなたの職場はこんな悩みを抱えていないだろうか。今や多くの職場で“当たり前”となった1on1。ヤフーが実践してきたこの対話手法は、単なる業務報告や評価面談とは異なり、部下の成長を支援し、信頼関係を築くためのものだ。本稿では、2017年に発売されて以降、最も売れ続けている1on1の入門書『増補改訂版 ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』(本間浩輔・著)から1on1についてよくある質問に対する一問一答の一部を抜粋・再編集して、1on1が持つ本当の意味と効果を解説し、成功するためのポイントを探る。

「もう放っておいてよ…」職場での成長ハラスメントにうんざりするベテラン社員。意外な本音とは?Photo: Adobe Stock

Q 年上のベテラン部下から、「1on1は不要」と言われてしまいました。どうしたらよいでしょうか。

 会社の人事部からは「全管理職は週に1回、部下と1on1を実施してください」と言われています。ですが、年上のベテラン部下から「そんなの必要ない」「今さら話すことなんてないですよ」と言われてしまいました。確かにこの部下は在職歴も自分より長く、業務の進め方も熟知しているため、改めて1on1を行う意味があるのか疑問に感じます。でも、それでいいのでしょうか。

A 年上のベテラン部下も心のどこかでは貢献したいと思っている

 年上のベテラン部下だからといって、1on1が不要ということはありません。

 1on1には「部下の成長支援」という狙いがありますが、年上の部下は往々にして「いまさら成長と言われてもな……」という本音があります。

 20代、30代が相手であれば、「キャリア自律」や「成長」という言葉が響きやすい。

 しかし、これが50代となると、「はあ?」と、すごい態度になる人がいます。

 定年まで残りわずかとなった段階で成長と言われてもしらけるだけ。そっとしておいてほしい、ということかもしれません。

 私の経験でも、1on1の研修をしていてもっとも難しさを感じるのは50代の参加者たちです。

 でも、そう言っている年上の部下の本音を探っていくと、「会社や若い管理職に迷惑はかけたくない」という気持ちもありそうです。

 心のどこかでは貢献したいと思っているし、「お荷物」にはなりたくない。

 だからこそ、年上の部下との1on1では、成長を促すのではなく期待を伝えることを意識してみてください。

僕が期待しているのはこれなんです」と伝え、日頃の行動が期待に合っているかどうかを明確にフィードバックすることも、方法の一つだと思います。

 ベテラン社員との1on1は確かに難しい。

 苦手だからコミュニケーションの頻度は下がっていくし、そのために期待やフィードバックを伝えられなくなっていく。その悪循環が状況を悪化させます。

 しかし、1on1においては、苦手な社員こそが先生です。

 対話を重ねて苦手な社員とも信頼関係を築くことができれば、自ずと1on1の質も上がっていきます。

『増補改訂版 ヤフーの1on1』では、部下との対話に必要なコミュニケーション技法について体系的かつ実践的に学ぶことができます。

 参考:【だから部下が辞めていく】「部下とのコミュニケーションに自信がある上司」ほど管理職失格の理由、ワースト1

(本稿は、2017年に発売された『ヤフーの1on1』を改訂した『増補改訂版 ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です。ヤフー株式会社(当時)は現在LINEヤフー株式会社に社名を変更しましたが、本文中では刊行当時の「ヤフー」表記としております)

本間浩輔(ほんま・こうすけ)
・パーソル総合研究所取締役会長
・朝日新聞社取締役(社外)
・環太平洋大学教授 ほか
1968年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、野村総合研究所に入社。2000年スポーツナビの創業に参画。同社がヤフーに傘下入りしたあと、人事担当執行役員、取締役常務執行役員(コーポレート管掌)、Zホールディングス執行役員、Zホールディングスシニアアドバイザーを経て、2024年4月に独立。企業の人材育成や1on1の導入指導に携わる。立教大学大学院経営学専攻リーダーシップ開発コース客員教授、公益財団法人スポーツヒューマンキャピタル代表理事。神戸大学MBA、筑波大学大学院教育学専修(カウンセリング専攻)、同大学院体育学研究科(体育方法学)修了。著書に『1on1ミーティング 「対話の質」が組織の強さを決める』(吉澤幸太氏との共著、ダイヤモンド社)、『会社の中はジレンマだらけ 現場マネジャー「決断」のトレーニング』(中原淳・立教大学教授との共著、光文社新書)、『残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方』(光文社新書)がある。