仮にできたとしても、それでは、消費者物価が上がってしまい、コストプッシュ・インフレを加速するだけのことだ。経済状況を改善することにはならない。

 必要なのは、為替レートを安定させて、これまで生じたような急激な輸入物価の変動を抑えることだ。

画期的な賃上げと言われるが
日本全体で見れば上昇していない

 画期的な賃上げが実現していると言われる。しかし実際には、その恩恵にあずかっていない人も多い。そこで、法人企業統計調査を用いて、日本企業の賃上げの実態を分析しよう。

 以下では、従業員1人当たりの人件費を「賃金」と呼ぶことにする(「人件費」は四半期当たりの支払い額であるから、ここでいう「賃金」は、従業員1人当たり、四半期当たりの支払い額である。図表6-9、6-10も同じ)。

 そして、「全規模」、「大企業」(資本金10億円以上)、「中小零細企業」(資本金1000万円以上1億円未満)の区分で分析する(なお、このデータに金融機関は含まれていない)。

 2018年1〜3月期から24年1〜3月期までの推移を示すと、図表6-8のとおりだ。賃金水準は、大企業が最も高く、中小零細企業が最も低い。そして、全規模がその中間になる。

「34年ぶりの高賃上げ率」でも喜べないワケ、大企業がカネを巻き上げる「強欲インフレ」のメカニズム同書より転載

 どの範疇でも、全期間を通じてあまり大きな変化は見られないが、大企業は2022年以降、緩やかに上昇している。それに対して中小零細企業、全規模では、変動を繰り返しており、はっきりした上昇傾向は見られない。

 24年1〜3月期の水準を19年同期と比べると、大企業では1.1だが、中小零細企業では1.03にとどまる。全規模では1.05だ。これでは、ここ数年の物価上昇にとても追いつかない。

 つまり、賃金が上昇しているというが、それは大企業のことであって、経済全体では顕著な賃金上昇は生じていないことが分かる。