だが、映画についてはそうもいかない。映画枠を埋めるため、まとめて100本ほど買い付けすることになるのだが、全部を見ているわけでもないし、選り好みできるほど選択肢も多くない。売る側も叩き売りだし、こちら側も叩き買い感覚でテキトーに買い付ける。目利きの必要もない、雑な仕事だから、私のような新人でもやれたのだ。
1本あたりの購入金額はとても安いのだが、購入番組が多いので必然的に予算も多くなる。年間予算は約3億円(*)にのぼった。この全額を入社1年目の新入社員が運用するのだ。
アニメのシリーズを数十本まとめて買い付け(*)たとき、少しして自宅に綺麗な封筒が届いた。なんだろうと思って差出人を見るとアニメを購入したディストリビューター(配給会社)名だ。
封を開けてみると、「友情の証(あかし)として」と書かれたカードとともに1枚のメダルが入っていた。何かの記念のメダルなのだろうと放っておいた。
その後もその会社と取引をするたびにメダルが送られてきた。そのうちメダルの大きさが違うことに気づいた。購入金額が多いとメダルが大きく、金額が少ないとメダルが小さい。つまり、メダルの大きさは購入金額に比例していたのだ。
調べてみると、メダルは金貨で、一番小さい金貨は7000円、大きいもので2万8000円になるらしい。これ以上、額が大きくなれば、賄賂(わいろ)じゃないかと不安になる金額だったが、このころの地方局の購入担当はみな平然とこの「友情の証」をフトコロに入れていた。
1年目の年収は、青天井でついた残業代も込みで400万円弱。一般企業とくらべれば悪くない額だったが、同業他社の各テレビ局の水準からは大きく差がついた。そんな私にとってバカにならない金額であったものの、足元を見られているようで気持ちのいいものではなかった。
配給会社は、テレビ局にどうやってたくさん買ってもらうか、策をめぐらせる。「キーマン」である購入担当にコイン以外の方法で取り入るにはどうするか? 接待である。