A社の接待はこうだった。まずホテルオークラのバーで待ち合わせ、そのバーでアペリティフ(食前酒)。フレンチレストランに移動して高級ワインとフルコース。最後は再びバーに戻り、食後酒としてコニャックやアルマニャック。もちろん全額がA社負担だ。フランス料理など当時の私にとってそれほど嬉しいものでもなかったのだが、今思えば、きっとA社の担当がフランス料理好きだったのだ。
S社の接待は六本木での大宴会(*)だった。それは合コン宴会とも呼べるもので、レコード会社やCM制作会社、地方テレビ局の若手社員が大喜びで参加していた。
T社とは、北は北海道から南は沖縄まで日本全国の有名ゴルフ場をプレーして回った。

各社の豪勢な接待は、ついこの前まで大学生だった私に大人の世界を味わわせてくれたが、心のどこかにつねに虚しさが漂っていた。それよりも私に刺激を与えてくれたのは視聴率だった。
月曜から金曜まで放送していた夕方のアニメ枠はとくに好調で、時にゴールデンタイムの平均視聴率を上回るほどの数字を獲得した。
私はできるだけ自分が幼いころに見て、心惹かれたアニメを買い付けることにした。そうして放送されたアニメ枠は、夏休みや冬休みにも思わぬ高視聴率をとった。“不朽の名作”(*)はいつの時代も子どもを惹きつけることがよくわかった。
私はどんな接待よりも、自分が買い付けた番組が高視聴率を得ることのほうに快感を覚えていた。
新聞のラジオテレビ欄に掲載される映画の概要記事を書いていた。映画会社から映画の内容を紹介した資料をもらい、それを100~200文字にまとめる仕事だ。本来は広報部が行なうのだが、なんせテレビ上方は映画の購入枠が多い。広報部だけでは手が足りず、新人の私に仕事が回ってきた。