仕事の意欲を高める「誇り」と「環境」と「報酬」
社会のニーズに応え、順風満帆なスタートをきった武蔵コーポレーション――しかし、組織の拡大とともに、大谷さんは大きな挫折を経験した。
大谷 1人で始めた会社に仕事がどんどん舞い込んできて、一緒に働く仲間も増えました。「社会に貢献したい」という思いがありつつ、30代前半の私は、「会社は儲かればいいだろう」くらいの安易な考えで……あるとき、20人いた社員の7人が、ほぼ同時期に辞職したのです。「経営者として、お前はダメだ!」と突きつけられた気がして、「会社をたたもうかな」と思いました。
経営者としての辛酸をなめながらも、武蔵コーポレーションは賃貸管理戸数などの数字を年々伸ばし、創業13年目(平成30年/2018年)に、本社を丸の内(東京都千代田区)に移転した。
大谷 会社を拡大したいとか、全国区の知名度を持ちたいとか、いろいろな思いがあって、さいたま市から東京に本社を移転しました。しかし、私たちの規模の会社では東京にオフィスを構えても埋もれてしまう。求人によって良い人たちもたくさん入ってきたけれど、辞めていく人も多い。「何のために会社を経営しているのだろう?」と悩み、「会社の存在価値は、単に大きくなることではなく、関わる人の幸せ、特に、社員の幸せではないか?」という考えに行き着きました。そして、もう一度、地に足をつけた事業を行う決意で、2年前(令和5年/2023年)に大宮に戻ってきました。
この場所で大きく変わったのは、離職率が下がったこと。退職者が減りました。いろいろな理由が考えられますが、「地域に貢献したい」という思いが社員の中にあったり、東京と違って、少しゆったりした空気感があるので、気持ちが楽だったり……丸の内の近くには住めませんが、大宮だと、歩いて出勤できる社員もいます。
企業の規模を問わず、どの業種においても、若手社員の離職は経営層にとって大きな問題だ。特に、不動産業界は、法人数が軒並み増え続け(*2)、労働条件のよりよい組織に人材が流動していく傾向が高い。社員が仕事を続けるために必要なもの――大谷さんは、その「3つ」を説く。
*2 公益財団法人不動産流通推進センター「2024不動産業統計集(9月期改訂)」参照
大谷 一つ目は「誇り」です。「自分は、この仕事をしている」「私たちは、この会社にいる」という誇り、プライドです。「仕事が社会の役に立っている」「社内のみんなの役に立っている」と思えるような誇りは、仕事をするうえで絶対に必要で、誇りを持てなければ、どんなにお金をもらっても幸せではないでしょう。胸を張って仕事ができることが大切なのです。二つ目は「環境」。主に、人間関係です。気の合う仲間や上司の存在。私たち武蔵コーポレーションの場合、そうした人間関係に加え、「地元」というのも重要な環境の一つになっています。そして、三つ目が「報酬」、給料です。これらの三つが揃うことで、働く人の幸福感が生まれます。その幸福感を最大化していくのが、会社経営の目的だと、私は考えています。