一人ひとりに寄り添いながら、「三方よし」を実現
大谷さんは、武蔵コーポレーションで働く人たちと家族のように接し、また、彼・彼女たちの家族を「第二の家族」として、創立記念パーティーに招くなど、深い付き合いを続けている。
大谷 家族的経営です。育児や介護、個人的に抱えている悩み……私が家族のように接しているみんなには、それぞれの事情があるので、一人ひとりに徹底的に「寄り添う」ことを心がけています。決まった時間での出社ができない人、リモートでしか仕事ができない人……最近では、「母親が病気なので、北陸にある実家で仕事を続けたい」という人もいました。そうした、個人の事情にひとつひとつ応えていきます。
浜松(静岡県)に引越しをしなければならない社員がいたときに、武蔵コーポレーションは、その社員の雇用継続のために「浜松支店」をつくった。大谷さんは、本人の意思を尊重しながら、どこまでも寄り添っていく。
大谷 社員の希望があって、支店ができる――今年(令和7年/2025年)は、那覇(沖縄県)にそのケースが加わる予定です。地方出身の人は、大学で首都圏に出てきて、そのまま就職しても、いつかは地元に帰りたいという気持ちもあります。私は、その思いに応えたい。こうしたことは、私たちのビジネスにきちんと利益が出ていて、全国各地で仕事の需要があるからできるのですが、「地元で活躍したい」社員が頑張っているから利益が出ているとも言えます。
江戸時代の近江商人が大切にしていた「三方よし(買い手・売り手・世間よし)」の精神を、大谷さんは経営の根幹に据えている。アパート・マンションのオーナー、入居者、取引先、そして、社員の「よし」を実践する“源泉”はどこにあるのだろう?
大谷 私を「エリート」と思っている方もいますが、決してそうではありません。ビジネスエリートは、「ヒト・モノ・カネ」があって起業します――“有名な企業で実績をあげ、仲間もついてきて、資金もあって、前職で繋がったクライアントもたくさんいる”といったふうに。しかし、私の場合は、三井不動産さんのビジネスのスケールが大きすぎて、模倣できなかった。起業したときは一人きりで、オフィスの掃除も郵送物の受け渡しも、営業も、物件探しも自分でやりました。ですから、いま一緒に仕事をしてくれているみんなへの強い感謝の気持ちがあります。現在、300人ほどですが、雇用形態や肩書きにかかわらず、みんなが、貴重な自分の時間を武蔵コーポレーションに投資しているわけで、まず、そのことをありがたく思います。先ほど申し上げた「誇り」「環境」「報酬」を重んじながら、経営者である私は、「幸福」というリターンをみんなに返さなければいけません。