豪傑揃いの三菱
秀才型が多い住友
この質問は北沢だけではなく、鈴木剛(編集部注/住友銀行元頭取)に対しても行われた。「採用にあたって重役何人かの画接もあった。『君が住友に入社したのち、住友の利益と国家の利益が、相反する問題にぶつかった場合、どちらを選ぶか』という質問があった。
私は即座に『もちろん国家の利益を考える』と答えた。あとで聞いたところ、それがよかったらしい。当時の幹部には元総理事の伊庭貞剛さんをはじめ、禅や朱子学に凝った方が多く、大局に立ち、公益を重んずる姿勢が強かった」(『私の履歴書 経済人21』)。

菊地浩之 著
三菱の採用面接でよく訊かれる質問は「酒はどれくらい飲めるか?」であった。住友の質問とは天と地ほど違う。その結果、豪傑揃いの三菱に比べ、住友で採用される人材は秀才型に収斂されていったという。
住友財閥では「年々歳々諸方の学校卒業生らを採用するに当っても、住友は、学業成績に重点を置き、秀才型の人間を最も歓迎した。こういう秀才等が集合すると、必然に、暢気なところがなくなり、几帳面で、理屈臭くなる。約束は固く守り、規則は励行するけれども、いやしくも法に外れたり、前例のないことなどは『まずやめて置くがよろしかろう』ということになる」。
そのため、「住友の社風は正しく、つつましく、そして強健であった。これは実業界のどこに押出してもヒケを取らない。けれども、何となく野暮でもあった」(『住友回想記』)