最終面接は日本橋白木屋前の住友合資で行われた。学生六、七人が一度に会う集団面接方式で、会社側も各社トップが六、七人いたと思う。しかし、質問はほとんど小倉さんが仕切って、他の委員は時々口を出す程度だった。私が小倉さんに聞かれたことで覚えているのは『学校の講義は休まずに出ているか』とか『酒はどんなところでどんな飲み方をしているのか』といったようなことばかりである。(中略)
全く予期していなかったことばかりを聞かれて戸惑ったが、考えてみると、その受け答えを通して、実によく人物を見極められていたと思う。学問や知能といったことはすべて学校の教授の推薦に任せる態であった」(『私の履歴書 経済人34』)。
まとめてみると、(1)住友側が主だった学校に推薦を求める(いわゆる指定校制度だったのではないか)。(2)学校側が候補者をふるいにかける。(3)総理事・理事が旅館などに缶詰めになって、一人一人を面談する―といったところであろう。
「君は住友と国家の利益どちらをとるか」
住友が求めた国家意識
官僚を中途採用して経営の中枢に充てた住友財閥では、国家意識が極めて強かった。その意識が採用面談の質問にあらわれている。住友の入社試験では「住友と国家の利益が相反する場合はどちらをとるか」との質問が出され、「住友の利益を先にとる」と答えた受験生は落第になったという。
ちなみに「国家の利益を先に考える」という答えは及第点、一番良い答えは「国家の利益と相反するような事業には、住友は手を出さないはず」という徹底したものであった。
北沢敬二郎によれば、「最初の質問は『国家の利益と住友の利益が相反した場合あなたはどうするか』というのであった。私は昂然として『国家は最高の道徳なりということばがあります。住友は国家あっての住友であるわけですから、国の利益に反して住友の利益があるとは思いません。
しかし、そういうことが実際にあって国の利益をおかしてまで住友の利益を図れという命令があったなら、私はいさぎよく住友をやめます』と答えた。
入社を希望して来ていながら、初めから退社を言い出したのは変なものだったが、鈴木総理事は『けっこうです。お帰りください』と言われ、面接はたったの三、四分で終わってしまった」(『私の履歴書 経済人9』)。