採用における“ユーザー体験”の質を高めていく

 山田さんは理工学部で生産管理を専攻していたが、卒業して、すぐに就職した。大学院で研究を続けるよりも、学部時代に経験した“長期インターンシップ”で人と人の関わり合いに興味が湧き、人材業界への就職を志望したという。そして、大手通信系の人材サービス会社を経て、前職ではエンジニア人材専門の採用支援事業を立ち上げ、アカリクの創業者からバトンを引き継ぐかたちで現在に至っている。

山田 私自身は、院生・ポスドクの経験はありませんが、彼ら彼女たちの、研究に対する熱意や努力を強くリスペクトしていて、そのキャリア形成を応援したいと常々考えています。

 人材業界の造詣が深い山田さんだが、いま、企業の経営層・人事担当者に伝えたいことは?

山田 近年、新卒でも中途でも、採用における候補者のユーザー体験(採用UX)が重要になっています。院生・ポスドクを含め、求職者の間では、何をやるかよりも誰とやるかを気にする傾向が強まっていて、面接官の対応であったり、人事部門とのコミュニケーションであったり、ときには、社長の人柄で入社を決めることが少なくありません。企業側の手間はかかりますが、候補者一人ひとりにきめ細かく寄り添えば、規模の小さい会社でも優秀な人材を獲得できます。

 多くの企業は人事担当者が忙しすぎて、求職者との接点を丁寧に設けるのが難しいという声も耳にします。人事部門もKPIが重視され、母集団が何人で、そこから何人が面接して、最終的に何人が入社したか、という数字が経営から求められがちで、人事担当の方と話をしていると、追うべき数字と「良い人材と出会いたい」という本来の想いの間で葛藤されている方が多いように感じます。採用活動においては、求職者とのコミュニケーションやプロセスを丁寧に積み上げていかないと、人事担当者の努力が無駄になりかねません。私たちとしても、アカリクの各種ソリューションの提供を通じ、その努力が成果に結びつくよう伴走したいと考えています。

 そして、採用におけるユーザー体験の質を高めるために、特に経営層の方にお願いしたいのは、“人事部門に投資すること”です。人材採用の成否は事業の成長に直結します。採用戦略の巧拙が会社のゆくえを左右していくのです。長期的な視野を持って、人事部門に投資することが、これからはいっそう大切になるでしょう。