高度専門人材=院生の魅力はどこにあるのか?

 ここで改めて、院生やポスドクといった高度専門人材が企業の戦力となる理由を山田さんに語ってもらった。

山田 たとえば、人手不足を補う手段としてAIが注目されていますが、それには、AIを使いこなせるリテラシーと経験を備えた人材が欠かせません。その点、院生やポスドクの多くは、普段からAIを事前リサーチに使ったり、実験データを読み込ませて、分析に活用したりしています。今後、一人当たりの生産性がますます重要になってくる時代において、彼ら彼女たちは、AIをはじめ、さまざまなITツールを使いながら、自分が行うべきことにフォーカスするのが得意です。また、博士号の取得には、テーマを設定し、あらゆるデータを集めて論文にまとめるというプロセスが必要です。その経験自体が貴重な財産であり、それができる人は、企業における業務やタスクを適切にこなすことができます。

 私は、これからの時代に求められるのは「T型人材」だと思います。“T”とは、専門性の深さ(縦軸)と対応力の幅(横軸)を兼ね備えているという意味で、院生やポスドクには、その「T型人材」が多いのです。

 修士・博士人材が専門性や課題対応力に優れていることは間違いないだろう。しかし、一方で、「優秀だが、コミュニケーション能力はどうなのか?」といったイメージもある。企業のさまざまな組織にうまくなじめるのだろうか?

山田 人事担当者からそういった質問を受けることもありますが、問題ありません。なぜなら、大学院という研究機関は、人間関係においても厳しい環境にあるからです。そこで鍛えられた修士・博士・ポスドクは、多くの人がコミュニケーション能力に優れ、ストレス耐性も高いです。

 当社の社員にアンケート調査を行ったところ、約半数が博士人材を「非常に評価している」としており、「やや評価している」と合わせると95%以上の数字でした。「今後も一緒に仕事をしていきたいか?」という質問にも、「非常にそう思う」が36.9%、「ややそう思う」を合わせると90%以上でした。業務における専門性や対応力に限らず、日常的な接触を通じて、高度専門人材の魅力を感じることも多いようです。

 20代後半になって初めて社会に出る博士人材は、“覚悟が決まっている”とも言えます。「(就職を考える)企業の選択で何を重視するか?」と尋ねると、学部生は、福利厚生、働き方、勤務地といった答えが目立ちますが、博士は、「入社する企業に貢献できるかどうか」を意識する傾向が強いです。勤務地にもそれほどこだわりません。研究者としての経験を活かせることが納得感につながるのです。博士人材は、事業への貢献ばかりではなく、組織に好影響を与えるはずです。