“院生(修士・博士)”という人材プールへの注目
アカリクは、自社も多くの博士人材を採用している。その割合は、社員100名ほどのうち、2割弱におよぶという。また、人文社会系の博士人材が3分の1ほどいて、研究領域を問わずに活躍している。
山田 特に博士人材の採用を重視しているわけではありません。採用母集団を形成し、面接を進めていくなかで、博士人材が多く残る、ということです。今春(25卒生)も、7名入社のうち6名が大学院卒、うち3名が博士課程出身でした。
博士人材は難易度の高い課題に向き合い続ける覚悟、リスクを客観的に数字で把握する能力、物事をキャッチアップするスピードの速さ、主体的に課題を設定して取り組む自走力、試行錯誤のサイクルの速さなどにおいて優れています。当社は、博士人材の初任給などを考慮したうえで、入社後も学会や研究会のための休暇制度を設けたり、フレックスタイムやハイブリッドワークで働きながらの研究活動、論文執筆、学会発表を奨励したりしています。副業・兼業も認めているので、入社後に、大学や研究所の非常勤講師や客員研究員として活躍しているケースもあります。

自社の事業内容と人材採用がうまくリンクしているのがアカリクの強みだが、多くの企業は、これまで、「博士人材を採用する」という発想自体があまりなかったのではないだろうか? 関心があったとしても、企業内での博士人材の活躍が想像できず、そもそも、そのポテンシャルに気づいていない企業がほとんどだと山田さんは指摘する。
山田 近年、新卒にしろ、中途にしろ、なかなか思うように採用できない企業が増えています。だから、いまこそ、新しい人材プールとして院生に注目する意味があると思います。
特に、「技術革新とともに事業課題が高度化し続けている」「答えのない問いに向き合い続けるような粘り強さのある人材が欲しい」という課題感がある場合、院生の採用は有力な選択肢になります。
もちろん、院生は「できれば、これまでの研究を続けたい」という人が多く、就活に臨むとなると、彼ら彼女たち自身の意識改革と行動変容も必要となります。以前は、民間企業への就職を「都落ち」「ドロップアウト」と捉える風潮もありました。ただ、いまでは研究室の先輩などが民間企業で活躍している事例が増え、ポスドクというキャリアの厳しさも院生は理解しています。自分の研究テーマにこだわりつつも、「これまでの研究活動で培った経験やスキルをどう活かすか」という視点を持つ人が増えているのです。大学では特定の研究テーマに集中し、次のステージでは他の選択肢にも目を向けて、自分の可能性を広げる――そうした院生の姿勢が、今後、企業に多く受け入れられていくことでしょう。