製造業では工場で、サービス業や小売業では店舗で、空調や電灯のオンオフなどを細かく調整し、何銭何厘何毛といった単位のコスト削減を重ねて利益をつくり出している。地政学リスクがもたらす事業へのインパクトは、例えば関税が引き上がるだけで、こうした企業の不断の努力が一瞬で無に帰すほど大きいと認識しておくべきだ。
サプライチェーン途絶で
資金のある会社も破綻
基本的に、地政学リスクへの対応には「1カ月しか猶予がない」と肝に銘じておく必要がある。もちろん、海外拠点の移転などには数年単位の準備が必要になるし、高品質な調達先を新たに見つけるのにも時間を要する。だからこそ、いざ有事になる前に、その準備をあらかじめ進めておかなければならない。
「うちの会社は1カ月ぐらい入金がなくても潰れない」と高をくくるのは危険だ。運転資金は十分にあったとしても、商売に必要な商品を調達するサプライチェーンが途絶えてしまえば、会社は操業停止状態に陥る。顧客は、地政学リスク対応を万全にしていた他社に流れていくだろう。
日本企業の棚卸資産回転期間は平均1.08カ月(2022年度の全産業・全規模平均)とされる。店舗であれば、約1カ月で商品在庫がすべて入れ替わる計算だ。適切なタイミングで商品が入荷できなければ、早くも翌月には顧客に提供できる在庫がなくなってしまう。特定の顧客にのみ納品している製造業であれば、欠品によるビジネスリスクはさらに大きい。契約通りに納品できなければ、違約金が発生することもあり得る。
地震や洪水などの自然災害と同じく、地政学リスクの顕在化による「サプライチェーン途絶」は、あっという間にビジネスに致命的なインパクトをもたらす。2022~23年にかけて世界規模で発生した半導体不足では、多くの企業が倒産の憂き目に遭った。苦しんだのはエレクトロニクス企業だけではない。例えば、家具やじゅうたんを製造している中小企業が、生産に必要な製造機械の部品が届かず工場が稼働停止となり、経営難に陥ったケースもあった。