給料遅配、社員から借金…倒産寸前からの再出発

 創業オーナーの感性でつくった服は、億単位の在庫を抱え、創刊からの女性編集長のつくる「いきいき」という定期購読誌は、2006年の38万部をピークに釣瓶落としのように部数が落ち、20万部を切るまでになっていた。

 社員の給料は遅配となり、それどころか、会社は社員から借金をしながら決済を続けていたが、それでも足りず取引先に振り出した手形が不渡りになった。2度不渡りを出すと倒産ということになる。この段階で、会社は民事再生を申し立て、J-STARが設立したいきいき株式会社に全事業を譲渡した。

 2009年6月、創業オーナーは退任、J-STARは宮澤孝夫を代表取締役社長に就任させ再建をまかせる。

 宮澤は、もともと東大で航空工学を修士まで学んだエンジニアだ。卒業後は野村総研に就職するが、この時、上司に勧められて読んだある本に衝撃をうける。

 大前研一の『企業参謀』だった。『企業参謀』は大前がマッキンゼーにいた時代に書いた専門書だが、この本から、本質を見ることの大切さを教わった。

 宮澤はこの会社の本質は、「物販と編集の連携だ」とすぐに見抜いた。しかし、編集のほうは、自分は門外漢だから、すぐには雑誌の売り上げは改善できない。まず物販についてなぜ、赤字なのかを洗い出した。

 そうすると前のオーナーの経営の仕方は、原価率をまったく考えない感性の商品づくりにたよるものだったとわかった。通常のアパレルの場合仕入れは40%だ。しかし、前オーナーは、50%や、60%の原価でもかまわず値付けをしていた。そのかわりに、100冊「いきいき」を仕入れ先に定期購読してもらうといったやりかただ。

 原価率をコントロールし、適正な注文と在庫数にする、これだけでまず物販の部門の収益が改善し、2010年には会社は黒字化する。

 次は雑誌部門だった。創刊編集長にかえて、朝日新聞出版から新聞記者出身の女性編集長を起用した。が、これはうまくいかなかった。

 部数は伸びず、それどころかずるずると後退をし、気がつけば15万部を切り、物販もおちこんで、会社の経営は再び悪化した。

 なぜこの企画をやらないのか、と尋ねても「いきいきらしくない」と一刀両断にされた。