マネタイズを“悪”と
決めつける必要はない
富山市の八尾地区では毎年9月1日からの3日間、「おわら風の盆」という伝統祭が開かれます。
11の町に分かれて、そろいの法被に編み笠を目深に被った男女が、胡弓や三味線の哀切感に満ちた音色に合わせ、坂の多い街並みをゆっくりと踊り歩く優雅さと気品が溢れる祭りです。
ただ、全国の祭りと同じく運営費用の資金繰り問題や後継者不足という課題があります。「巡行の範囲が広いため、有料席を設けるというわけにもいかず、収支改善に苦労している」とのことでした。
そこで2024年のおわら風の盆において、文化財活用支援の会社「あっぱれ」と連携し、各町を応援するうちわの販売を企画し、実行することとなりました。アイドルのコンサートで、ファンたちが推しのメンバーの名前を書いたうちわを振って応援する姿をそのままに、各町の紋様をプリントしたうちわを地元のイラストレーターさんに製作してもらい、購入した見物客に各町の「推し活」をしてもらおうという試みです。
11の町と、すべてを応援する「箱推し」の人のためにすべての町の紋様を盛り込んだものを加えた12種類のうちわをECサイトや会場で販売したところ、初日は台風がやってくるかもしれないという悪天候でしたが数種類は完売するほどで、450万円の売り上げを叩き出しました。

永谷亜矢子 著
この成功は、購入者が見物客だけでなく、そもそもの各町の人々が持つ「自分の町の紋様を持ちたい」というニーズにも応え、加えて県外から故郷に思いを馳せる地元出身者の方たちが「風の盆には行けないけれど、せめてうちわをECサイトで買って遠方からでも応援したい」という郷土愛がもたらしたものです。
過疎や少子化で地方都市は人口減に歯止めがかからず、そのひずみは地域の祭りに及んでいます。ただ、地元を離れても、故郷を思う人はいます。そして、祭りはその愛郷の念を大いに揺り動かす行事でもあります。住民も、以前住んでいた人も、祭りはすべての熱量が集まる場所です。その熱が、地元をなんらかの形で推したいという気分に駆り立てるのです。
マネタイズを悪と決めつける必要はありません。祭りを継承していくため、あるいは守るべき資源のために自分たちで資金を調達するのは当然のことです。祭りは継続の危機に立たされてはいるものの、この2つの事例のようにマネタイズの可能性を大きく残しているのです。