企業の介護に対する認識の差が
ビジネスケアラー支援の格差に
まさに喫緊の課題にもかかわらず、企業が行う仕事と介護の両立支援策の質には差が生じている。とくに、100~300人規模の中堅企業では深刻な格差が広がり、仕事と介護の支援が進んでいる会社と、まったく手つかずの会社が混在しているという。
「中堅企業では経営層の介護に対する理解度の差が、ビジネスケアラー(仕事と介護の両立)支援の有無にあらわれています。たとえば、経営者自身が介護を経験していたり、身近な人がビジネスケアラーだったりすると、社員の介護離職に対して強い危機感を抱きやすい。しかし、企業のトップにそうした知見がない場合は、仕事と介護の両立支援が遅れるケースが多いですね」
後者の企業では、介護に関する相談窓口はもちろん、上司に相談する雰囲気すらもなかったりする。その結果、介護の悩みを打ち明けられないまま会社を去る社員もいるという。
「これはビジネスケアラー自身の課題でもありますが、身内の介護に“恥ずかしさ”を感じたり、介護によるキャリアへの影響を懸念したりする人は、周囲に相談しない傾向が強いです。当事者が声をあげないため、企業が当事者の実態を把握できないという悪循環に陥っています」
ちなみに、1000人以上の社員が働く大企業では、CSRなどの観点から、介護に関するセミナーの定期開催や専用相談窓口の設置といった取り組みも行われている。また、50人以下の零細企業では、社員一人ひとりの事情を経営者が把握しやすいため、個別に支援策を講じるケースもあり、はからずもサポートが進むケースもあるそう。
一方、経営層が介護に理解を示さず、仕事と介護の両立を開示しにくい中堅企業にいる社員は、帰宅後に介護を行い、残った業務は深夜に終わらせる。ギリギリの状態で働き、周囲に気づかれないように振る舞ってしまうという。仕事と介護の両立に限界を感じても、それを告げずに辞めていくため、ビジネスケアラーの存在が可視化されにくいのだ。
「また、“介護”の状況が家庭ごとに異なる点も、企業の支援を阻む要因のひとつ。親と離れて暮らしながら地域の介護サービスを利用して土日に介護を行う人もいれば、日中は仕事をして、夜は同居中の親を介護する人もいる。各家庭の事情によって最適解が異なることも、支援が進まない原因になっています」