そんな父の寝室には約1万冊の書籍がおいてありました。東洋哲学・西洋哲学・経営学・その他がちょうど4分の1ずつ。壁一面が本でびっしり埋まっていました。
こうした本の中にドラッカーの全集が含まれていました。父は、中学生の私に対して、ドラッカーの著作を開きながら『現代の経営』『マネジメント上・中・下』『創造する経営者』等に通底する「何かの弱みを別の何かの強みで打ち消す」という経営の本質を語りました。
「俺は財産は残さんけど、経営の考え方ば残すけん」
というのが父の口ぐせでした。
当時の私がドラッカーの経営思想を「七転八起の四角形」という図式に綺麗に整理できていたわけではありません。それでも、自分の人生において、どんな出来事にも常に良い点を探し、悪い点を打ち消す次の一手を考えるようになったのは父の影響だったでしょう。
「進学すらできない現実」が
人生のプラスになった瞬間
たとえば、自分が置かれた状況を次のように考えたわけです。

まず「経済的な理由で高校に進学できない(各種の制度を頼って公立高校に進学した場合には進学先が防衛大学校のみに限られる)」という、当時の自分にはどうしようもできない現実がありました。
これは当時からすれば「現在」の問題、今の筆者からすれば「過去」の問題です。とはいえ当時でさえ自分では現在進行形で解決できないのですから、広い意味で「変えられない過去」と割り切ったわけです。
でも、一般的な高校に進学せずに自衛隊生徒やトヨタ学園で働きながら勉強する道にも必ずプラスの側面(良い部分)があるはずです。たとえば「体力が身につく」「甘えた根性を叩たたき直せる」などです。
筆者は祖父が生きていた小学生時代までは超が付くお金持ちのお坊ちゃんでした。運転手さんがベンツで送り迎えしてくださり、祖父の家には鯉が泳ぐ池とプールと草スキーができる丘が付いた広大な庭があり、庭にお手伝いさんの家も付いていたくらいです。
そんな家庭で人生を舐めずに育つわけがありません。ですから、人間修養において自衛隊生活は必ずプラスだったと思います。