さらに、イギリス英語に関して言えば、「スタンダード」とされるイギリス英語を話す人たちは現在では全国民の3%程度です(注5)。イギリスの人口が6700万人ほどなので、およそ200万人しかいないことになります。
全体の英語話者15億人に比較すれば、およそ0.13%の人たちしかスタンダードな英語を話していないことになります。これだけレアなものって、世間を探してもなかなかありません。
ネイティブと言われる母国語の英語話者の中にもそれなりにバリエーションがあるわけで、世界の3分の2にあたるノン・ネイティブについてはなおさらです。要するに、それぞれの言語圏や文化圏で、非常にバリエーション豊かな発音や文法で英語が使われている。こうしたバリエーション豊かな英語によって、世界中で学問やビジネスが行われ、国際色豊かなコミュニケーションがなされているのです。
世界の英語のコミュニケーションの大半が、そうしたノン・スタンダードな英語で成り立っているのは、先ほどの数字を見れば明らかです。そしてそのような英語のコミュニケーションは、スタンダードとされる発音や文法から様々な形で逸脱しています。
ノン・スタンダード英語でも
会話が成立している不思議
それでもなおかつ、お互いの理解がしっかりと成り立ち、コミュニケーションが成り立っている。
いったい、なぜなのでしょう?
世界の15億人の人々が話すバリエーション豊かな英語の共通点とはいったい何なのか?それを科学的に探究するのが「リンガ・フランカ」(Lingua Franca)という名で進められてきた、一連の研究です。
母国語を共有しない者同士が、スタンダードから逸脱した英語を話しても、互いの理解を損なうことなく、豊かな英語のバリエーションを保ちながら、スムーズなコミュニケーションを取れる。そんな「リンガ・フランカ」でのコミュニケーションとはどんなものなのか?完璧な英語ではないのに、相手のアメリカ人が自分の話を理解できるためには、どの要点を押さえておけばいいのか?
そうした研究が21世紀に入ってから活発に行われてきました(注6)。
例えば、以下の発音問題から考えてみましょう。
「She used a knife to cut the rope.」に現れている「cut」の母音の発音と同じものを「(1)sat(2)love(3)set」から選ぶ問題です。
注6 Jenkins J, Cogo A, Dewey M(2011) “Review of develop-ments in research into English as a Lingua Franca.” Language Teaching. 44(3):281-315. doi:10.1017/S0261444811000115